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「………………」
ふと、目が覚めた。
部屋の中は、カーテンがひかれていて、くらいけれど。
たぶん、お昼くらい?
思ったよりも、寝てしまったみたい。
そこで、ふと手に違和感を感じて。
そっちに視線をむければ、先生が、ぼくの手をにぎったまま眠っていた。
なんで…………?
お昼ということは、学校があるはずで。
それなのに、どうして先生はここにいるんだろう。
……………ぼくのために、しごと、やすんでくれたの…?
まだすこしぼんやりする頭で、先生をじいっと、見つめる。
長いまつ毛に、陶器みたいに白い肌。
その顔にかかる、ミルクティー色のやわらかそうな髪。
すべてが、すごくすごくきれいで、思わず見とれてしまう。
そのまま、先生のほっぺたに、そっと触れた。
うすく、けれど確かに存在する隈。
…………僕のこと、ずっとみててくれたんだろうな。
仕事に、家事に。それだけでも、忙しいはずなのに。
さらに疲れさせてしまって、ごめんなさい。
そう思うのに、それが、"うれしい"と思ってしまう自分もいて。
「………………」
ごめんなさい、とありがとうの気持ちをこめて。
寝ている先生を起こさないように、そっと抱きつく。
熱で少しあついぼくより、ひんやりしたからだ。
けれど、触れ合うと、やっぱりこころがぽかぽかする。
…………しあわせ。
むねからあふれてくる想いは、とまらなくて。
「すき……だいすき」
それにひきずられるように、ぽろりと言葉がこぼれた。
すると
「おれも」
そんなことばがきこえて。
おどろいて、上を見ると、みえたのはきれいな、あお。
…………え、おきてる?
状況についていけなくて、目をパチパチさせる。
それを見た先生は、ゆるく笑って、ゆっくりとぼくの髪の毛を梳いていく。
そうされると、なんだか、ぜんぶがどうでもいい気がしてきて。
うっとりとされるがままになっていると。
「顔色は、ましになったな。体調、どうだ?」
そういって、おもむろに顔が近づいてきて。
え、と思う間も無く。
コツン。
「……………………!!!」
「ん、ちょっとマシだな」
額と額が、ぶつかる。
まつげの本数すら、かぞえられそうなくらい近くにある、先生の顔。
ゆるりと、どこか眠たげに瞬かれた瞳。
頭に浮かぶのは、寝る前の、キスで。
心臓が、ばくはつしてしまいそう。
ちらりと先生をみれば、先生の頬も、なんだか赤くて。
夢じゃなかったんだなっておもうと、たまらない気持ちになる。
「ほんとに、夢じゃないんだな」
そういって、先生は、ふんわり、しあわせそうに笑った。
きゅん、と心臓が甘くはずむ。
先生の顔はゆっくりと遠ざかっていったけれど、手はずっとぼくを撫でてくれていて。
しあわせで、いつまでもこうしていたくて。
両手で先生の腕をつかんで、すりよる。
けれど、それを見た先生は、急に睫毛を伏せてしまった。
「おれ、お前のこと、ほんとにすきだ。
……たぶん、お前が思ってるより、ずっと。
だから」
もう、絶対に俺に黙ってでていったりしないでくれ。
震える声でそういって、先生はぼくの肩に顔を埋めてしま
う。
そのすがたに、ズキンと胸が痛んだ。
昨日の、先生の表情を思い出す。
…………もう、あんなかお、させたくない。
ううん。
させ、ない。
ぎゅっと先生の頭をだきしめて、何度もうなずく。
すると、先生はぼくをぎゅうっとだきしめてから、ゆっくりと頭をあげた。
視線が、あう。
先生は、いちど、ためらうように視線をさまよわせて。
けれど、ぼくの手首の包帯を見ると、決心したように、ぼくをみつめた
「……お前が、されたくないこと、怖いこと、………今まで、どんな生活を送ってたのか、全部、しりたい」
まえだったら、こわかったかもしれない、その質問。
けれど、今のぼくにとっては、こわくない。
大切なのは、昔じゃなくて、今で。
先生を"信じる"ことだって、わかったから。
だから、しっかりとひとつ、頷いた。
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