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45.(虐待表現注意)
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それからだった。
オトコノヒトは、どこか、遠くを見つめることが多くなった。
もとから、たくさんしゃべっていたわけじゃない。
ご飯を一緒にたべることだって、そんなにおおくはなかった。手をつないだことだって、ほとんどなかった。
だけど。
"保護者"として、行事には、でてくれた。
話しかければ、反応は、してくれた。
なのに。
『あのね、きょう、これかいたよ』
『……………』
『リレーで、かったよ』
『……………』
『テスト、よかった』
『……………』
『ねぇ……………』
『……………』
『きこえて、る……?』
『……………』
たったひとこと、『そうか』と、いって欲しかった。
何回も、なんかいも、はなし、かけた。
だけど。
何日経っても、何週間経っても、何ヶ月たっても。
オトコノヒトは、しゃべらない、ままで。
行事にも、きてくれなくなった。
すこしずつ、家に、いない日がふえていった。
……………こわかった。
『前髪だけは切らないでくれ』
やぶるつもりなんて、なかった。
だけど、そこまで強い意味をもっているとも、思っていなかった。
ただただ、こわくて。
もとに、もどってほしくて。
だって、それまで、オトコノヒトは、ぼくを"見てくれなかった"けれど。
そのときの、オトコノヒトには、まるで、ぼくが、"見えていない"みたいで。
だから。
ぼくは。
『………………おとうさん』
そう、よんでしまった。
完全に、こわれてしまったのは、きっと、このとき。
『うるさい!!!!!!!!!』
なにが起こったかなんて、まったく、わからなかった。
はじめてきいた、オトコノヒトの、大きな声。
はじめてみた、オトコノヒトの、表情がのった、顔。
ほっぺたが、あつい。
ジンジンする。
…………いたい?
どうして?
『俺は、おまえの父親なんかじゃない!!!!!』
じゃあ、ぼくは、なに?
『その目で、俺を見るな!!!!』
前髪を切ったらダメなのは、それが、理由?
『その声で、俺に話しかけるな!!!!!』
だからいつも、つらそうな顔をしていたの?
『その顔も、声も、気持ち悪いんだよ!!!!!!』
くるしそうで、泣きそうな、顔。
くるしませているのは、ぼく?
ーーーーー『目の色、黒じゃないんだね』
ふと思い出したのは、学校でいわれた、ひとこと。
気にしてもいなかったけれど。
"オトコノヒト"が、でていってしまった、部屋の中で、へたりこんだ。
……そっか。
ぼくが、"マチガイ"だったんだ。
そう、思った。
おかしく"なってしまった"んじゃない。
もともと、おかしかったんだね。
それを、この、広がった視界は。
ぼくに、見せてくれた。
ぼくが、信じていた、"当たり前"は"当たり前"じゃ、なかった。
それだけの、こと、なんだと。
ぼんやり、考えた。
「………………ッ、…………ヒュッ、…………ハァッ」
今まで"ふつう"にできていたことが、不思議なくらい、息を吸うをことが、むずかしくて。
いきが、くるしかった。
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