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ふるりと首をひとつふって、嫌な考えをふりはらった。
テストは終わって、することもない。
誰もいない部屋は、とても静かで。
そうしたら、やることなんてひとつだけ。
「〜〜〜♪〜〜〜♩〜〜〜」
空に向かって、うたう。
この声が、空を通り抜けて、充さんの元まで届けばいいのに。
そう思うことは、この声を直接届けられないぼくの、甘えでしかないけれど。
今は、そう願うことくらいしかできない。
でも。
いつか。
「〜〜〜♬〜〜〜〜」
充さんのお陰で、どんどん色鮮やかになっていく、この歌を。
"充さんの、おかげだよ"
この声で、そういって、届けたいな。
うたを歌うことは、変わらず楽しい。
それでも、いつだって充さんのことで、頭はいっぱいで。
気付けば、つむぎあげる歌詞に、ぼくの想いが乗っている。
いままでは、"うたう"こと、そのものが大切で、歌詞とか、メロディーとか、そんなものにはあまり意味がなかった。
でも、ぼくはいま確かに、"歌詞"にこのこみあげる想いをのせている。
あの日、画面の向こう側にいたひとも。
ありがちだと思った、あの歌詞にも。
こんなふうに、誰かに伝えたい想いが、あったのかな。
そして、それが結果として、ぼくの"すくい"をつくってくれたのだとしたら。
「すてき、だなぁ……」
あのひとは、今でも、うたっているのかな。
顔も、見ていないし、名前も、しらない。
だから、調べることもできないけれど。
まだ、うたってくれていたらいいな。
ぼんやりと、もう随分暗くなった外をながめる。
思ったよりも時間が経ってしまっていたみたい。
ガチャリ。
玄関が開く音に、あわてて玄関にむかった。
パタパタと玄関にかけつければ、充さんは、驚いたように目を瞬かせる。
『充さん、おかえり』
口の動きでそう告げれば、その瞳はゆるやかに細められていって。
「ただいま、めぐむ」
大切そうに、一言一言をかみしめるように、そういった。
"めぐむ"
充さんの口で呼ばれる名前は、なんだか自分の名前じゃないみたいに、きらめいて聞こえる。
ぜんぶ、ぜんぶがたまらなくて、充さんにぎゅっと抱きついた。
充さんは、とがめるでもなく、あっさりぼくを抱き上げて、リビングに入っていく。
「寂しかった?ひとりにして、ごめんな」
まるで、小さい子を扱うみたい。
そういうと、やわらかく耳元に唇を落とす。
恥ずかしいし、胸がドキドキするのに、どうしようもなく、安心する。
ふるりと首をふってから、その綺麗なあおいろを見つめ返した。
……やっぱり、どんな青空よりも、ずっとずっと、きれい。
『ううん、お疲れさま』
そういうと、今度は額にそっと口付けられた。
反射的に目を閉じる。
それでも、そのあおは、ぼくの脳裏に、焼き付いて離れなくて。
…………このまま、ぼくの瞳のいろも、充さんのあおに、染められたら、いいのになぁ。
そうしたら、ぼくはなんだって、できる気がするのに。
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