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63.
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ずきん。
頭がにぶく痛んで、そっと目を開いた。
「………………?」
そう、たしかに、目を開いた。
それなのに。
視界は、まっくらで。
まだ、夢の中なのかな?
そう思ったけれど。
身じろぎをすれば、全身に感じる圧迫感に、気付く。
…………僕、どこか狭いところに閉じ込められてる?
壁らしきところを強く押しても、びくともしなくて。
「なんで……?」
呟いた声は、狭い空間に反響するだけ。
そこで、ハッと思い出した。
確か、ぼくは女の人と、ぶつかって、案内することになって、それで。
ゆるく弧を描いた唇が脳裏にうかんだ。
『利用されてよ』
『またね』
その唇から、こぼされた言葉も。
とたんに、ぞわりと鳥肌がたつ。
彼のーーーー神田さんのいう、"利用"って、このこと?
ガタン。
状況を飲み込めなくて、ただただ、混乱していると、急に光が差し込んできた。
暗闇になれた目に、その光は痛いほどで。
ぎゅっと目をつむって耐えていると。
ダンッ!!!
その狭い箱から、強い力でひきずり出された。
「ッ…………!」
思いっきり叩きつけられた体に、ちいさくうめけば、ぐいっと前髪を持ち上げられる。
「おひさしぶりだね、おはよう、綺羅くん。元気だった?」
そう尋ねる声は、やっぱり不自然に、やさしい。
そろりと目を開けば、その顔は穏やかな微笑みをうかべている。
噛み合わない、ことばと行動。
だけど。
「すごく会いたかったよ」
その瞳だけは、どこまでもくらくて、よどんでいる。
「ふふ、本当に、ぼくにそーっくりだね。ほんと、気持ち悪いくらい」
その瞳が、ぐっと近付いて、ぼくを眺める。
「まぁでも、果たすべき役目は果たしてくれたみたいだから、とりあえず、"ありがとう"っていうべきかな?」
ニッコリ笑ったその表情に、ぞわりと悪寒。
なんだかこわくて、じりじりと後ずさりしようと、した、その時。
ぐいっ。
きていたシャツを、力任せにひっぱられて。
「でもさ、この傷。気にくわないんだよね。」
あらわになった、体をなぞられた。
視線を下ろせば、たくさんの傷がのこる、体。
ひとつひとつ、充さんが、丁寧に手当てしてくれて。
それでも、消えない傷が、並んでいる。
「これってさ、全部"綺羅"に、つけられた傷でしょう?」
その言葉は、質問のかたちをとってはいるけれど、たぶん、質問ではなくて。
ぼくが、なにかを言うよりさきに。
「僕が全部、消してあげる」
"綺羅"からなにかを、もらうなんて、許さない。
そう呟いて、僕に手を伸ばしてきた、神田さんの瞳は。
きっと、たぶん。
ぼくを、見ていなかった。
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