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74.(side.神田)
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それが、せめて、一時期のことだったら、よかったのに。
綺羅と、彼女は、いつまでも一緒にいた。
高校を卒業しても、大学生になっても。
むしろ、歳を重ねるごとにあいていく、ぼくと綺羅の隙間ぶん。
綺羅と彼女は、どんどん、ちかくなっていった。
かつてのぼくと、綺羅のように。
ふたりは、1つだった。
それが、決められた形であるみたいに。
ふたりはごく自然に、いつも寄り添っていた。
綺羅は、変わらず、まっすぐな男だった。
かつてぼくに、愛を与え続けてくれていたように、彼女だけに、愛を捧げ続けていた。
そして、彼女もまた、綺羅だけを、まっすぐに愛していた。
それは、絵本に登場するような、澄み切った、完成された"愛"のかたちだった。
どうして。
そんな言葉を、何度も呑み込んだ。
だって、ぼくのほうが、綺羅の気持ちを、ずっと理解できるのに。
ぼくのほうが、綺羅のために、沢山のことをしてきたのに。
ーーーーーー本当に?
だって、ぼくと綺羅は、同じだ。
捨てられた、ぼくたちだからこそ、分かり合える。
ぼくは、綺羅のために、綺羅と一緒にいるために、血の滲むような努力を続けてきた。
綺羅の未来を潰さないように、身を裂く思いをして、離れることだって、決めた。
………………これが、これこそが、愛でしょう?
なんて。
ほんとうは、わかっていた。
ぼくは、綺羅からの"愛"に、甘えているだけで、それと同じ想いを、きっと返せていなかった。
綺羅は、何度だって。
態度で、"寂しい"と。
そう、告げていたのに。
綺羅もまた、"愛"に、飢えていることなんて、すっかり頭から抜け落ちてしまっていた。
綺羅と一緒にいるために、なんて。
自分の願望でしかなくて。
綺羅のため、なんかじゃない。
自分のため。
綺羅の未来を潰さないために。
これも、エゴだ。
今だから、わかる。
『…………俺は、レイといる時が、1番楽しいよ。』
あれは、きっと綺羅の本音で。
離れたくないと、そう言ってくれていたのに。
全ては、ぼくの独りよがりな行動でしかなくて。
ぼくのいう"愛"なんて、"依存"に、すぎなくて。
ぼくがそうして、自分で1人、踊っている間に。
彼女は、綺羅に手を差し伸べて。
あの、暖かさで包み込んで。
独りよがりじゃない、2人にとっての"愛"をささげて。
そうして、本当の意味で、綺羅の"特別"になったのだろう。
だから、しょうがない。
「なぁ、レイ。俺たち、結婚することになったんだ」
しょうがないよ。
そうでしょう?
もうぼくは、綺羅の"1番"でも、"特別"でもないけれど。
それでも、"1番の親友"の、はずだから。
最後に、もらった由来くらいは、大切にしないと。
「おめでとう」
2人を思いやって、心の底から、そう言わないと。
ほら、綺羅は道を踏み外すこともなく。
"正しい将来"を手に入れたじゃない。
その場所に、ぼくが立つことなんてできるはずないって、ずっとわかっていたでしょう?
それでも、そこに、いたかった?
ううん、あきらめていた?
正しく在ろうとする理性と、綺羅を求める本能が、混ざり合って、混乱する。
もうどれが本心で、どれが建前なのかすら、わからなくて。
自分がどんな表情で、"おめでとう"と言ったのかすら、わからなかった。
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