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78.(side.神田)
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義父の言っていた通り、転勤先から日本に帰ることは、なかなか叶わなかった。
それでも、何日たっても、何ヶ月たっても、何年たっても。
綺羅のことが、頭からはなれることはなかった。
綺羅の"こども"のことだって、ずっと頭のなかをめぐっていて。
…………そんなに、うまくいくはずがない。
うまく、いってはいけない。
けれど。
"うまくいっているのでは"
昏い期待を殺すことは、できなくて。
もしうまくいっていたら。
そうして、2人が壊れてしまっていたのなら。
「今度こそ、ぼくだけを、見てくれる……?」
その目に移る感情が、憎しみでもいい。
殺意でもいい。
愛じゃ、なくてもいいから。
ただ、他が目に入らないくらいに、ぼくに、強い感情を、関心を、向けてほしい。
綺羅の、唯一になりたいんだ。
薄々分かってはいたけれど。
どんなに離れていても、綺羅への想いは消えない。
会えない分、思い出は重みを増して。
想いは、溢れていく。
永遠に日本に帰らないつもりだった。
それが、できるせめてもの償いだと。
けれど、"こども"の存在を知ってしまえば、そんな決意も吹き飛んでしまった。
今にも、正気じゃなくなるのではないかと、そう思うほど、狂おしいほどに、綺羅を愛していた。
…………本当に、帰る前に、この想いで、狂いしんでしまうんじゃないだろうか。
そんな考えに、自嘲の笑みが浮かぶ。
そうして、"自分はまだ笑えたのか"、なんてぼんやり思った。
意識すれば、笑える。
けれど、自然と笑ったのなんて、いつ以来だろうか。
なんて、さして興味もないのだけれど。
ちらり、自室から見える空をぼんやりと見上げた。
空は、つながっている。
それはつまり、この空の下に、綺羅がいるということ。
そう考えると、なんの変哲も無い青空すら、愛おしい気がしてくるから、不思議だ。
大丈夫。
まつのは、耐えるのは、慣れている。
そうして、日本に帰る日を、
…………綺羅の"こども"を確かめる日を、待ち望んで16年。
ぶわり。
吹き抜ける風は、慣れ親しんだそれより、随分湿っぽい。
「………………やっと、会えるね。綺羅」
呟いた声は、風に紛れてかき消えていった。
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