アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
83.
-
「………………は?」
静まり返った部屋にひびいたのは、オトコノヒトの、呆然とした声だった。
その間に、床に落ちたナイフを、バレないように、そっと遠くへおいやる。
バレてしまったら。
そんな恐怖で、心臓はドクドクと早鐘をうつけれど、どうにか追いやることに、成功した。
そうしている間にも、会話は、つづく。
「愛してるから、幸せになってほしいって、そう思おうとした。
したけど、無理なんだ。
どうしたって、その幸せのなかに、ぼくがいないって、そう思ったら、もう耐えられなかった」
「ッ……!?最初に、俺を遠ざけたのは、お前だろ!!!」
「それだって、ユウと、一緒にいるためだった!!!!
エゴでしかなかったけど、それでも、すこしでいいから、一緒にいたかったんだ。
だけど、その間に、君はほんとうの"特別"を見つけてしまった」
「………………」
ぼくには、2人がいっていることの、半分も理解できなかったけれど、それでも、オトコノヒトが、すごくショックを受けていることだけは、わかって。
「いやでも、わかった。
ぼくは、彼女には、かなわない。それでも、しょうがないってそう思おうとしたけど」
神田さんも、なんだか、さっきまでとは様子がちがっていたから。
油断、していた。
「けど、ね」
そこで、とつぜん。
「………………ッぁ、ぅ……?!」
突然、首を絞められた。
「!?!!おい、レイ!やめろ!!!」
「やっぱりさ、ダメなんだ。
ねぇ、もう、愛じゃなくていいんだ。
憎しみだって、殺意だって、なんだっていい。
なんだっていいからさ。」
その目に、ぼくだけをうつして。お願いだから
必死の形相で、こちらに向かおうとする、オトコノヒトの顔が、ぼやけていく。
息が、できない。
くるしい。
すごく、くるしくて。
前にも、こんなことあったな。
なんて、考える思考も、だんだんとぼやけてきて。
だからかな。
「めぐむ!!!!」
あの時も、ぼくを助けてくれた声が、すぐ近くで聞こえた気がした。
…………そんなこと、あるはずないのに。
けれど。
「…………ッ、けほ、…………げほっ、けほっ」
そんな、都合のいい幻聴と一緒に、急に酸素が、空気が、流れ込んできて。
「めぐむっ……!」
泣きたいくらいに、優しいぬくもりに、つつまれた。
酸素は流れ込んできているはずなのに、息の仕方が、わからない。
くるしい。
こわい。
目の前にある気がする、ぬくもりにしがみつく。
そうすると、ぼくの記憶と、全く同じ手つきで、背中をなでられて。
「焦らなくていい。大丈夫だから。
……ゆっくり、吸って。そう、吐いて。
よし、同じリズムで」
耳元で、そう囁く声は、その香りは、どうやったって、ぼくが会いたくて、たまらなかった
「み、……っ、……る、さ?」
「…………!
うん。ここに、いるから。
おそくなって、ごめん」
帰ってきた返事に、どうしようもなく、泣きたくなって。
ぎゅう、みつるさんに、抱きつく。
そうすれば、背中に回った手は、優しくぼくを抱きしめてくれて。
そのあたたかさに、なんだかもっと、涙がこぼれそうになった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
84 / 90