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それは一瞬の出来事で。
誰も、反応できなかった。
「レイ…………?」
呆然とした、オトコノヒトのつぶやきで、皆が、我にかえって。
呆然と神田さんをみつめる、オトコノヒトの瞳を見て、彼は満足そうに笑った。
「ふふ、もうさ、これしか方法がないんだよね」
その目は、ただただまっすぐに、オトコノヒトを見つめている。
その瞳に、ぼくや充さんは少しもうっていなくて。
今ならわかる。
神田さんは、いつだって、どこか遠くを見るような、今を見ていないような、そんな目をしていた。
それは、きっと、誰といても、何をしていても。
………その視線の先に、オトコノヒトを見ていたからなんだろう。
「ぼくはね、反省も、後悔もしてないよ。
これだけのことをしてもね、頭の中にあるのは、"君の特別がほしい"って、それだけなんだよ、ユウ」
「おい、しゃべるな!傷がーーー」
ふらふらと、吸い寄せられるように、神田さんに近付くオトコノヒトを、彼は、引き寄せて。
そっと、その唇に、口付けた。
それは、一瞬の出来事で。
けれど、彼はとてもとても満足そうに、わらった。
「生きてる限りね、ぼくの愛はとまらないんだ。
君の、全部が愛おしくて、だから、全部が憎くなる。
無駄だって、わかってるのに、ぜんぶを、めちゃくちゃにしたくなる。
今日は、失敗しちゃったけど、この手はいつかきっと」
誰かを、殺すから。
「ユウ……!」
「これで、いいんだよ。ねぇ、今はさ、今くらいは、ぼくは君の特別でしょう?」
「なんで、お前、こんなの……!」
たしかに、殺したいくらい、憎かった。
憎かったけれど、こんな終わり方、あんまりだろ
そう言って、オトコノヒトがこぼす涙すら、神田さんは愛おしそうにすくい取って。
「そうだね、ぼくは、結局最後まで、自分本位にしか生きられないんだよね。ごめんね。
いつだって、君にもらった、由来とは、程遠い人間だったよ。
……まぁでもそれも、君にとっては、もう大したことじゃないのかもしれないけど」
喋り続けるその顔からは、急速に血の気が失われていって。
「やめろ……!最後ってなんだよ!
もう、喋るなって……!」
オトコノヒトが、一生懸命止血していたけれど。
それ以上の速度で、命のかけらが、ほろほろとこぼれていっているのが、わかって。
充さんが、ひとことぼくに声をかけて、外に駆け出していくのが、見えた。
きっと、助けを呼びにいったんだろう。
…………ぼくも、なにかしないと。
そう、思うのに。
ぼくは、ただただすくみあがって。
動くことさえ、できなくて。
「もう、疲れたんだ。自分の想いをとめるには、もう心臓ごと、とめるくらいしか、思いつかないんだよ。
……それすら、君がいる、今しか、きっとできないからさ」
どんなに止められても、喋り続ける神田さんは、この状況に似つかわしくないくらいに、幸せそうで。
「それでも、最後でも、ぼくは君の幸せなんて、祈ってやれないよ。
ねぇ、ユウ。好きだよ、愛してる。
……君の、とくべつ、もらうね」
これできみ、ぼくのこと、忘れられないでしょう?
どんどん、その呼吸が、あらくなっていく。
オトコノヒトは、ぎゅうっと、引き止めるみたいに、空いた方の手で、その手を握って。
「わかってないのは、お前だろ。
…………レイは、いつだって、俺の特別だったよ」
そう、いった。
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