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(続)
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予定通りに家を出たので遅刻をすることなく、規定の時間にそのビルに着くことができた。
私の任務はあくまで、殺し屋のフリ、実際に社長を殺すのはその会社の秘書で、私は、社長がたまたま今日 警護を頼んでいた用心棒の目を潜り抜ける為の偽物の殺し屋。ただそれだけだと、打ち合わせをした者から聞いていた。
自ら人に手を下すことの無い任務だったことから、矢張り気が抜けていたのかもしれない。
私は気が付いていなかったのだ。
自分が嵌められていた事に。
〜
私は、予定通り、雇われ用心棒が来る前に秘書によって椅子に拘束された。
鉄線を含んだより紐で、キツくキツく。
殺し屋の<フリ>だと言うのに、此処までガチガチに拘束されるのか。と、少々の違和感を感じたが、口には出さなかった。
もしかしたら、予想だにしない手練れの用心棒が来るのか、と 少し不安に感じた事を良く覚えている。
…結果、私の予想は見事に的中した。
組織からも最低限の情報しか受け取らなかったので、聞いていなかった。
まさか、まさか[銀狼]の名で通る、横浜随一の用心棒 福沢諭吉が来ようとは、…一体誰が想像していただろうか。
私は、布袋を被り 用心棒が現れるのをじっと待っていた。
職業柄、じっといている事には慣れている。
目を瞑り、今日は子供達に何を買っていこうか と、そんな事を考えていた時だろうか。
部屋の空気が一変した。
………酷く、冷たい
直ぐに分かった。
それは、殺気だった。
布袋を被っていたので姿こそは見えぬものの、相手からの体全身に痛いくらいに伝わる殺気で、相手の存在感は苦しいほどに認識出来た。
……此処からは少し長いので省略しようか。
「この男の引き渡しにご同行頂きたいのです。」
暫くして、秘書から放たれたその言葉は、私の心を惑わすのには十分過ぎるものだった。
用心棒の目を潜り抜ける為だけの任務だと聞いていたというのに、
警察への引き渡し?
銀狼が警察への引き渡しに同行?
話が違う。
嵌められた事に気付いたのはその時だった。
そういえば、打ち合わせに持ってくからと、組織の構成員に指紋を採取された。
あれを証拠として警察の前に出されたら言い逃れようがない。
あぁ、どうしようか。
私にはこの場を切り抜ける方法が分からない。
動揺すると、直ぐに助けを求めたくなるのは人間の性だろうか。
此の様な場面には、必ず彼の顔が頭に浮かぶ。
恐ろしく頭の良い、放っておけない、何処か儚げなあの青年を……。
しかし、この状況で彼に助けを求める事は不可能。
もう、いっそ、このまま諦めて…………
「たのもう!」
その、鶏が鳴くような元気な声は、混乱する私の思考を全て掻き分け押し退け、しかと私の耳へ届いた。
そして、颯爽と現れた少年は、大人達が頭を悩ませていた事件の真相をいとも簡単に…当たり前の様に解いてみせた。
私は、少年の推理…いや、少年が述べた真実を聞き届けた後、依頼人であった秘書を使い慣れた拳銃で撃ち殺した。
マフィアを嵌めたのだから、もうこの秘書は横浜で…いや、何処にも行くことは出来ないだろう。
組織に捕まれば辛く長い拷問で死ぬ寸前まで苦しむ事になる。
その銃弾は、私の僅かな慈悲だった。
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