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(続)
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…それから私は、結局、殺人の罪で市警の地下拘束所で暫くの間を過ごした。
空調が効いていたのでそこまで悪い環境ではなかったが、飯が不味かったのはよく覚えている。
いや、思い出したくない。
…そうだ 、いつだったか 地下拘束所に銀狼が訪ねてきたことがあった。
ある犯罪組織がよく使っている監禁場所を教える代わりに 私は銀狼にカレーを食わせろと乞うたのだ。
今となっては懐かしい。
そんな事を考えていると、目の前にカレーが置かれた。
鼻腔をくすぐるスパイスの香りが忘れかけていた食欲を呼び覚ます。
私は、手を合わせ「いただきます。」と言い、丁度置かれたスプーンを手に取った。
待ちに待ったカレーだ。
私は、最初に皿の端、卵が付いていない部分を少しスプーンに取り、口へ運んだ。
辛い。しかし、美味い。
自分の舌が、待望の刺激に歓喜しているのが良く分かる。
次に、中央に堂々と輝く黄味を割り、皿の中央を軽く混ぜ、口へ運ぶ。
少し辛さはマイルドになるが、程よい刺激が私の頭を、舌を、痺れさせた。
「辛くないの?」
ふと、隣から声が聞こえた。
「辛い…が、其れが良い。」
私は、簡潔にそのままを伝える。
すると、少年は「僕は辛いの嫌いだなぁ…この世の中に甘味だけあれば、僕は十分だよ。」と、独り言の様に呟いた。
カレーを食べながら、私も頭の片隅で考える。
この世には…はやり、他の全ての食が無くなっても、ここのカレーだけは残っていて欲しい。
ここのカレーが食べられなくなる時が私の人生の終着点だ。
…我ながら、呆れるほどのカレー好きだな。
と、私は、心の中で自分に言った。
あぁ…でも贅沢を言うのなら、友達と呑む酒と、蟹缶は残してやって欲しい。
これは、誰に言っているのか分からない。
……独り言で良い。
至福の時間というものは、矢張り足早に過ぎてしまうものだ。
私は、皿に残った最後の一口をスプーンですくい、口へ運んだ。
何も無くなった皿。
その皿は、一瞬の虚無感の後、次は何時頃食べに来ようか と、先の予定を考えさせた。
「御馳走様でした。」
私がスプーンを置いて言うと、店主が「お粗末さん」と言い、皿を下げた。
丁度その時だ
店の扉が開いた。
其れと同時に声が入ってくる。
「乱歩、帰るぞ」
瞬間、背筋が凍った。
あの日から忘れた事のない、銀狼 福沢諭吉の無色な声。
しかし、私は今、「ここのカレーを愛して止まないカレー愛好家」として此処に居る。
真っ直ぐ前を向き、店主の忙しい動きを眺めた。
「福沢さん!ヤケに早いじゃない!僕が立てた作戦、良かった!?いや、良かったんだよね!僕の作戦以外でこんなに早く仕事が終わるなんてないもんね!!ね!!」
「あ、あぁ…お前の作戦は大成功した。」
其処で私は少し驚く
銀狼の声に僅かながらな「色」を感じたのだ。
「帰るぞ」
しかし、次に銀狼が発した声に色は感じられなかった。
「おじさん!またね!!」
少年が無邪気に言う。
返事をするかを戸惑ったが、此処で先程、銀狼が言っていた名を思い出した。
「またな………乱歩」
他人の名を口に出して言ってみたくなった。
ただ、其れだけの事だった。
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