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(終)
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雨が降っている。
まるで、誰かの代わりに涙を流しているかのように。
雨は容赦なく冷えきった体に跳ね、尚私の体温を奪っていった。
私は幽霊の様に、ただぼぅ…の前を見つめ足を進める。
ドン!
腹の辺りに軽い衝撃がはしった。
ゆっくりと下を向くと、そこには私にぶつかった拍子にバランスを崩したのだろうか、小柄な青年が尻餅をついて、私へ向けて口を開いていた。
何を言っているのか、ぼやけた様な頭では理解するのに時間が掛かるが、少年が荷物を拾い始めたので、それを手伝う。
その時に拾ったものは何処か警察の鑑識が持っている物の様で、「あんたは警察か?」と尋ねると、青年は心底厭そうな顔をした。
と、そこで青年の顔を改めて見て気付く。
昔、会ったことがあっただろうか。
その青年の顔は、私の記憶の奥深くに残っている。
名前を何と言っただろうか。
少し考えてみる。
しかし、青年が怒りと嫌味を混ぜた自己紹介を始めた。
「僕こそは世界最高の名探偵、江戸川…」
「すまなかった。」
私は青年の台詞を遮った。
自分でこの青年の名前を思い出したくなったのか、思い出したく無かったのか、自分でも何故 青年の台詞を遮ったのかは分からない。
「先を急ぐので失礼する」
今、私にはやらなければならない事がある。
一刻も早く、だ。
何故急ぐのかも、もはや自分では考える事ができないが。
青年は私の言葉に聞く耳を持たなかったのだろうか。
話を続けた。
「疑うのなら見せてあげよう。
そうだな、君が急ぐ理由は………」
それは、私も知りたい事だ。
足が進みたいと、少し痙攣するが、青年の次なる言葉へ耳を傾けた。
「悪いことは云わない。
目的地には行ってはいけない。考え直すべきだ。」
「何故だ?」
「だって、行ったら君…………………
死ぬよ?」
鼓膜を震わせたその波は、私に少しの寒気と安心感を与えた。
今更、生き残ろうとも思っていない。
出来ることなら、闘いの後、私も最愛の子供たちの後を追いかけようと、心の何処かででそんなことを考えていた自分もいる。
私は、新たな煙草に火をつけ、それから青年に背を向けた。
西に向けて再び歩き出した。
歩きながら、背後の青年に向けて、私は云った。
「知っている。」
「またな、乱歩」
他人の名を口に出して言ってみたくなった。
ただ、其れだけの事だった。
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