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Chantilly Flower* 06
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バレー部と野球部と剣道部。
海南高校三大厳しすぎて入りたくない部活シリーズがその3つだ。
そう、うちの学校の剣道部はちょう厳しい。らしい。
そしてこれはクラスメイトの女子たちに聞いた話なのだけど、
志摩はそんなちょう厳しい剣道部のエースで
後期に三年生が引退した後に主将になる最有力候補の部員なんだそうだ。
一年生のときから既に放課後はほぼMa Priéreバイトとかパティシエ修行に費やしてるから私は詳しくはしらないけどそうらしい。
うちの高校の剣道部が、県だか全国だかの大会とかで優勝するほどすんごーーーく強いってのはよく表彰されてたから知っていたけど志摩までそんな凄いのは流石に知らなかった。
というより、何より凄いのはヤツがその立ち位置を守りつつ毎回毎回Ma Priéreに立ち寄ってるって事なのよね。
最初志摩が綾人さんに告白した時は男同士なんて無謀な恋なのにとか
綾人さんの人気の前に一塊の高校生が相手してもらえるわけない!とか勝手に思っていたけれど、
志摩はそんな事関係なく厳しい部活の後にいつもマメにMa Priéreにやって来て綾人さんにその真摯な眼差しを送る。
流石に志摩も毎日来てるわけじゃないし、いつもたくさん会話してるわけじゃない。
でも2人はいつもぽつりぽつりと穏やかな会話を交わして、少しずつお互いを知っていってるみたい。
無表情で硬派な志摩が時々口角を微かにあげて笑むと、綾人さんも純粋に嬉しそうな顔をしてた。
志摩のそれは、学校じゃありえない表情だ。
男同士が無謀とか、他の人から人気だからとか、志摩にはきっと関係ないんだな。
『好きなので、ただ、知っていてください』
志摩が最初に綾人さんに告白した時言った言葉の意味が少しだけわかった気がする。
志摩は誠実なんだ。
本気の好きって気持ちが、志摩をそうさせるんだなぁ。
少しだけ、応援したくなるじゃんか。
「なーんか本当に武士の恋って感じよねぇ」
「んー?武士がどうした、千花ちゃん」
ケーキのショーケースを磨きながら思わず呟くと偶然通りかかった綾人さんが荷物を腕に抱えたまま耳ざとく背後から聞いて来た。
「な、なんでもないです!」
「そ?」
カラン、と来店を知らせる鐘がなって2人して振り返ると最早常連さんの定番メンバーとなっている志摩が入って来た。今日も部活帰りの格好だ。
「都築さん、こんばんわ」
「いらっしゃいませ志摩くん。こんばんわ」
志摩が綾人さんと挨拶を交わした後、私と目が合えばお互いに無言でよお、と片手を上げ合う。
最近割と仲良くなりました。
志摩の誠実さがわかってきた手前もう水を差したり邪魔をする気もさらさらないからそれまでだけど。
「今日もいつものかな?」
「はい、モンブランで」
「了解いたしましたー」
二人の間も大分打ち解けてきてるのか荷物を片手に敬礼しながらすこしおどけて言う綾人さんは私から見てもめちゃくちゃ可愛い。志摩ももうそりゃあめろめろに見つめてる。
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます」
いつものモンブランとコーヒーのセットを目の前に礼儀正しく手を合わせる。
うん。武士にしか見えないぞ志摩。
フォークでモンブランを一口食べると分かりづらいけれど顔が少しほころんだ。
「美味しいです」
「それは良かった」
そうやって、2人笑いあう。
なんか、いいなあ。って思う。
毎回毎回同じやりとりだし私ここにいてショーケース必死に磨いてるのに蚊帳の外なんだけど、いいなあって、思う!くそう!
「あ、都築さん、俺言う事が」
「どうしたの?」
一口食べると志摩はフォークを置いて普段と大して変わらないが真面目な顔で綾人さんと向き直った。
…おや?
「実は、来週の土曜日に剣道部の大会があるんです」
そういえばクラスの女子たちが騒いでたな。
「おお。志摩くんも出場するの?」
「はい」
「凄い!頑張ってね!応援してるよ」
おおお、綾人さん!その笑顔は志摩には反則技なのでは?!
案の定無表情の志摩の耳だけが真っ赤になってる!!
「あ、りがとう、ございます」
誤魔化すようにコーヒーに口をつけてから志摩はまた改まって綾人さんに向き直った。
「……それで、明日から試合前って事で延長稽古が始まります。……その稽古が終わる時間が遅くて、Ma Priéreの閉店までの時間に来るのが…できなくなるんです」
続いたその言葉に、綾人さんと私は目をきょとんとさせてしまう。
え、志摩明日からしばらくMa Priéreに来れないって事?
「都築さん」
志摩はゆっくりとした動作でモンブランを指差して座った位置から綾人さんを見上げた。
「モンブラン、いつも俺のためにわざわざ1つだけ取り置きしておいてくれてたんですよね」
これには、少し驚いた。
実は、そうなのだ。
本当は…Ma Priéreのモンブランは人気商品の1つで、閉店まで残っているなんてことはあまりない。
最初と2回目に志摩が来た日に残ってたのは偶然で、それ以降閉店前の時間に志摩がよく通うようになってから綾人さんは毎日1つだけサービスで取り置きをしていたのだ。
志摩が来ない日に売れ残る可能性だってあるのに。
志摩、ちゃんとその事に気づいてたんだ…。
「ありがとうございます。でも明日からしばらくは、都築さんのケーキ、ちゃんと食べたい人に買ってもらえるようにと思って」
「志摩くん……」
「志摩……」
綾人さんと私がじっと見つめているとそれに気づいたのか志摩は珍しく少し慌てた。
「い、いい奴ぶってスンマセン。本当は試合観に来て欲しいんですけど…そもそもそんな仲でもねぇし土曜日だし店忙しいだろうな、奇跡起きねぇかな、とか考えてるようなカッコ悪い奴なんで…」
スンマセン、と志摩はもう一度謝って視線を反らせた。
そんな志摩を綾人さんは少しだけ見つめて、ふ、と息を吐いて志摩の顔を覗き込んだ。
「志摩くん」
恐る恐る志摩が綾人さんと視線を合わせる。
「試合は観にいけないけど、土曜日の夜にとっておきのモンブラン、用意しておくね」
綾人さんの言葉にとたん志摩はバッと顔を上げてまじまじと綾人さんを見る。
常連さんサービスです、なんておどけて付け足し綾人さんが言う。
綾人さんの本心まではわからなかったけど、志摩自身はそうとう嬉しかったみたいで
「絶対いい結果出して、また来ます」
ぐ、と身を乗り出して宣言する。
綾人さんはまたいつもの優しい笑顔を返した。
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