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Chantilly flower* 15
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ざー、ざー、ざーー。
雨が降り続く真っ暗な街並みを、ガラス越しに見てから静かにブラインダーを下ろした。
Ma Priéreの閉店時刻だ。
結局今日、志摩は来なかった。
あーもーッ!
なんなのなんなの何様のつもりなの?!
何が「都築さんも気を使ってくれてたんだろう」よ!
綾人さんは優しいけど、そんな安い人間なんかじゃないんだから!
素の部分を引き出せられないんじゃなくて志摩が見ようとしてないだけじゃない!綾人さん志摩にだって特別な顔でいっぱいいっぱい笑ってたんだから!
怒ってるところとか知らないところなんてこれから知っていけばいーじゃないのさ!
そんな事にも気付けない様なヤツに綾人さんは絶ッ対渡せないんだから!
もちろんスーツ野郎にも渡してあげないけどね!もうキレ千花ちゃんMAXだよホントにッ!!
お店のお掃除をしながら思わず大きなため息が出た。
数十分前の閉店間際、精算をしながら入り口から誰かが入って来ないか時折気にかけてる綾人さんの姿を見た。
志摩を待っていたのかどうか。
営業中だっていつも通り接客をしてたけど、心には何を思っていたかわからない。
「綾人さん、帰りますね」
閉店作業を全て終わらせて着替えてから、スタッフルームでまだパソコン作業をしている綾人さんに声をかける。
「ああ、千花ちゃんお疲れ様。今日もありがとうね」
わざわざ仕事を中断して向き合ってから見せてくれる暖かい笑顔。
自分の方が絶対今辛いのに、綾人さんはそれでも平気で人に優しく笑うんだ。
胸が苦しくなる。
「綾人さん」
「ん?」
「…いま、少しだけ、お話してもいいですか?」
綾人さんが少しだけ考えてからゆっくり頷いた。
「昨日は、覗き見みたいな事しちゃってごめんなさい」
「ううん。あんな所であんな話をしてた俺たちが悪いから…」
「綾人さん」
「……うん?」
「……烏滸がましいのかもしれないんですけど、…………綾人さんは、志摩のこと、どう思ってますか?」
正直、とってもこわい質問をしてると思ってる。
でも、志摩がMa Priéreに通うようになってからずっと気になってた。
志摩は綾人さんを好きだけど、綾人さんは?
志摩を好きなの?きらいなの?ただの、懐いてきてくれる可愛い年下の男子なの?
いつも穏やかで優しい笑顔の下に隠された本当の思いがわからなかった。
ちょっとだけ、手が震えた。
「………千花ちゃん、一生懸命になってくれてありがとうね」
椅子から立ち上がると、綾人さんはぽんぽん、と頭を撫でてくれた。
それから少し考えて、珍しく言いづらそうに微笑んだ。
「………そうだね。うん。……あんな、ちょっと恥ずかしいところ見られてしまって、志摩くんが俺に何を思ったかはわからないけど、」
……あ。
志摩、ねえ志摩っ、
「…………志摩くんがもうこの店に来なくなったらちょっと、つらい、かなぁ?」
志摩は、
志摩は綾人さんの素の部分、ちゃんと見つけ出せてるよ。
「いい大人が、こんな事言ってちゃダメなんだけどね」
志摩はちゃんと支えになれてるよ!
だから、綾人さんに会いに来てよ。
「………わたし、子どもとか大人とかって関係ないと思います」
いつも通り笑ってる綾人さんがいま、志摩が居ないから、とても辛そうなの。
いつも見てるからわかる。
「支えてくれる人って、どんな人にも必要だと思います」
いま、綾人さんの心にいるのは、
必要なのは、
あの男の人じゃなくて志摩だよ。
「………千花ちゃん、ありがとうね」
ねえ。
こんな悲しい笑顔、
こんな優しい綾人さんにさせないで。
ホントに、ホントに志摩はばかよ。
ざー、ざー、ざーー。
雨が降る夜。
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