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「はい、できたよ」
いつものように夕飯をテーブルに並べていくが、気分が乗らなくてぶっきら棒になる。
「おう、ありがとう」
さっきの電話の相手、誰なんだろう。
仕事仲間、ではないのは間違いないが。
「……なあ弓弦」
「何?」
「お前が載ってるあの雑誌、ネットで凄え拡散されてんだけど」
「へえ……そうなの」
頭を抱えるように言った悠人の言葉が右から左へ。
全く内容が入ってこない。
「へえ、て……大問題だろ。なんだその反応」
「別に、どうでもいいけど」
こんな不安に執着される奴、悠人は嫌いだろうか。
俺の連絡先は削除するくせに、自分だけ浮気をしているなんてあり得ない。
ましてや悠人が……と、信じたい自分がいる。
よく旦那か妻が一方の携帯電話をこっそりと見てしまい修羅場になっている話を聞くけど、俺の場合見るのがまず怖いのだ。
わざわざ出るのをためらっていたのも、そういう事なんじゃないかと思えてくる。
あああ、やめろ考えるな。
「食わねえの?」
「……悠人はさ、なんで俺のこと好きなわけ」
「はぁ?」
嫌いなところが好きだと一度言われたことがあった気がするが、不安を拗らせると何か聞かないと落ち着かない。
「なに、今さら」
「いいから答えろ」
「そういうところだよ」
「……どういうところだ」
「いちいち聞くなよ、いつも言ってんだろ」
「…………」
たしかに、いつも言ってる。
でも今欲しいのはそうじゃなくて……何なんだろう。
はぁ、とため息をついて立ち上がる。
「弓弦」
悠人の呼ぶ声も無視して洗面所に入ると、ジワリ涙が滲んで訳が分からない。
ただの同情ではないのか、そんな考えが浮かんで仕方がない。
悠人は元々、世田谷に気があったはずだ。
何度考えても答えが分かることもないのに、不安を感じると制御ができなくなる。
「……女かよ、俺」
うずくまったまま、ぼそりと呟くと突然洗面所のドアが開いて顔を上げた。
「何してんだ?」
「精神統一、だよ」
「嘘つけ。精神統一でなんで泣くんだよ」
「……泣いてない」
「泣きそうな目してんじゃん。何、そんなに好きな理由聞きたいわけ?」
「別に……。眠いだけ」
言い訳するのも下手になった気がする。
悠人のせいだ。
ドアを開けたまま中に入ってきた悠人に出て行けと言いかけたが、同じ目線に屈むと強く抱き締められて目を見開いた。
「…………な、に」
「そういう所だよ。お前のそういう、寂しいくせに素直じゃない態度も。生意気な割に怖がりな所も、頭が切れるのに抜けてる所も好きだよ」
「もう……良い、から」
「お前なんて大嫌いだったけど、嫌いな奴の恋愛成就を叶えようとしていた事とか結構ツボだな」
「い、言わなくて良いって言ってんじゃん」
自分から聞いたくせに、いざ言われると恥ずかしくてどんな顔をしたら良いのか分からない。
悠人の肩に顔を埋めれば、心がスッと落ち着いてくる。
俺も、大嫌いだったのに。
「……悠人、キス……したい」
「ふ、弓弦が素直ってだけで新鮮だ」
「うるさいな……」
唇が重なると全身に熱が回り、胸の奥が痛い。
「んっ……」
悠人がずっと俺だけを見てくれたら良いのに。
そうしたら、何も怖くなくなるはずだ。
「……エロい顔してんな」
「っ、顔見んな」
「お前、もっとブスになれよ。そしたら敵もクソもねえし」
「はぁっ⁉︎ 顔なんて変えられるか! 今さら何言ってんだよっ」
手首をきゅっと握られると体温が伝わってドキドキした。
悠人に触れられているところが痺れて震える。
「はぁ……あのな、弓弦の容姿だけで好きになる奴だっているんだよ。佐々木さんだってそうだろ、あれは間違いなく一目惚れだ。男女共にモテる顔してんだから、外に出てそういうエロい顔すんなよって事」
何を言ってんのこいつ……
エロい顔なんて、意識してできるものじゃないだろ。
つーか。
「どんな顔だよ!」
「叫ぶな、鼓膜が破れる。お前、無自覚ほどの重い罪はないぞ。あの写真だって、狙ってやってるようにしか見られないっての」
「……」
確かに、雑誌の件は上司や同期達に色々と聞かれて焦った。
意識したつもりはなかったのに、世田谷のあの反応も意味深すぎる。
悠人に会いたいということだけ考えていたとは、絶対に言えない。
「とりあえず、飯冷めるから戻るぞ」
ぽんぽんと頭を撫でられて頬が熱くなる。
悠人の隣に座った俺だけがドキドキしているようで、余裕げな表情に少しムカつく。
「本場のモデル、もっと凄かった。あんなのには、敵う気がしないんだけど……」
「へえ、モデルまでいたのか」
「ああ……世田谷が言ってた佐伯隆二だよ。写真で見るより、すげえイケメンだったし人柄も良さそうだった」
「あぁ、そう」
ガキみたいな考え方だけど、俺ばかりが一喜一憂しているようで気が乗らない。
体育会系の人間は自信を持っている奴が多いと聞くけど、こんなにも違うものなんだろうか。
食事を終えベッドに横になってからも、なんだか落ち着かなくて寝付けない俺とは真逆で、悠人は数分で寝息を立て始めた。
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