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会いたくて
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翌朝になり悠人と会社へ向かっていた俺は、こんな時間から混乱する忙しさに見舞われていた。
「Lily七月号のモデルの方ですよね⁉︎ あの、良ければここにサインくださいっ!」
「……」
朝、七時半の出来事だ。
知らない女子高生やすれ違う人に声をかけられたのは、これで二桁はいく。
「モデルじゃないので」と断わり続けて数十分、駅付近でも人の視線を多く感じていよいよ倒れそうになる。
「……なんで、みんな知ってんの」
「だから言っただろ。お前が代理とか、本業としか見られねえっつの」
隣を歩く悠人は若干キレ気味で、心が痛い。
学生の頃から注目される事はあったし告白された経験だってあるけど、職場を特定されると本気でやばい。
絶対に落ち着かない。
「はぁぁぁ……」
「これに懲りたら現場なんて行くなよ」
「……元々、行きたかったわけじゃないし」
「行きたくないなら断れよ」
「断れるかよ……課長があんなに困ってる顔してんの見た事ないのに」
頭を抱える俺を、悠人が「こいつは馬鹿か?」と言いたげな目で見てくる。
そうだよ、俺は馬鹿だ。なんとでも言え。
バスを待っていたら、カシャっとシャッターの音が聞こえて冷や汗が出た。
……写真撮られてる、泣きたい。
高校生がひそひそしている声が聞こえるし、悠人はイラついた表情だし、気が重すぎる。
「帰りたい」
「こっちの台詞だアホ。人が困ってたら何でもすんのか」
「だって……」
その時、路肩に黒の外車が停まりスーツを着た男が出てきた。
明らかに金持ち風のそれは、思わず目が止まってしまうもので。
何より驚いたのは、スーツの男が後部座席のドアを開けて出てきた黒髪の男だった。
「沖野君、また会ったね」
「____」
__え?
見たことのあるようなその男の登場に、付近にいた人達がざわつき始める。
「佐伯だよ。佐伯隆二、覚えてる?」
一番、今会いたくない人物に出会ってしまった。
悠人の顔が強張るのが見て取れる。
「あー……どうも、おはようございます」
話しかけてくるなよ……!
余計に注目が集まってしまい、逃げたい思いが強くなってきた。
「君は友達? 実は先日、沖野君にお世話になりました」
「……へえ、貴方が佐伯隆二さんですか。随分と仲がよろしいようで?」
ものすっごい喧嘩腰だし……ッ‼︎
口元は笑っているのに、目が全く笑ってない。
お願いだから、ここで「付き合ってます」とか言わないでくれ……
「仲が良いと言うか、俺がただ追っかけをしているだけだよ。ディレクターから聞いて、沖野君が事務所のスカウトを断ったと知ったんだけど、それがどうしてなのか気になっていたんだ。そしたら偶然見つけたから声をかけてみた」
「追っかけって……俺、一般人ですよ?」
「一般人なのがもったいないくらい、沖野君はセンスも容姿も完璧なんだよ。てっきりモデル志望かと思ったんだけど」
返す言葉に迷っている俺に代わり、悠人が佐伯さんを迷惑そうに睨む。
「勧誘すんの、やめてください。……あんたも良い大人なんだったら、潔く引けよ」
「……へえ、友人思いなんだね。でも俺は勧誘したいわけじゃなくて、沖野君のファンになってしまっただけだから身は引けないな」
ははは、と笑う佐伯さんは明らかに勧誘目的ではない。
一瞬、本当はやばい奴なのかと思ったが、ヘラヘラした顔は作りものには見えなかった。
それが余計に、悠人をイラ立たせてしまっているようだけど。
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