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「では、これが社長の部屋の鍵です。他に必要な物がありましたら──」
「大丈夫ですよ、笹山さん。本当に大丈夫ですから」
足元がグニャリと歪む感覚を覚えたのは、御崎さんの病室を出てすぐの事だ。
オレの体調は日々、いや、ほんの数分で激変する。
例えば今、一切の苦痛も何も無くて、今日は絶好調だと感じたとしても、10分後には苦悶の最中にいるという事もある。
でも例えそんな状態であったとしても、オレはやっぱり御崎さんの元へ向かったはずだ。
だとしたら笹山さんは何も悪くない。むしろ、待っていただけのオレを突き動かしてくれたんだから、感謝したいくらいだ。
そんな想いを込めて笑顔を見せたが、笹山さんの眉は益々垂れ下がる。
「三宅さんの体調の事もあるのに…すみません。」
「何言ってるんですか。オレの体調は今の始まったことじゃないんですから。こればっかりは…神のみぞ知る、ですよ」
オレは逃げることをもう止めた。諦めることももう止めた。
現実を受け止め、それでも少しでも前向きに生きていこうと決めた。
いつか御崎さんが帰ってくるであろうこの部屋で。
彼に最も近いこの場所で、オレはオレらしく毎日を過ごしていこう。
「あの、さっき仰ってたバイトの件ですが…本気ですか?私のアシスタントをしたいだなんて」
「え?あぁ、はい。どうしても起き上がれない時もあるんで、毎日…というのはキツいですけど。少しでもあの人の役に立ちたいんです。オレの出来ることは何でもします。だから…よろしくお願いします!」
「わ、分かりました!分かりましたから、そんなに頭を下げないでください!というか、まずは横になって下さい!」
御崎さんの回復を祈り、オレに出来ることを考えた。
そしてたどり着いたのが、笹山さんの手伝いだ。
正直、自分に何が出来るのか分からない。
役に立たない日もあると思う。
それでも、少しでも御崎さんの役に立ちたいと思った結果、オレは笹山さんに無謀なまでのお願いをした。
「手術は立ち合われますか?」
「……」
きつい目眩と吐き気に、一旦ソファーに沈み込んだオレに笹山さんが問う。
「心配だとは思いますが、まずはご自分のお身体を第一に考えて下さい。無理をして立ち会われるようなら、社長なら怒るはずです。」
「迷ってます。自分の体調の事もありますけど、それ以上に…オレがいるべきかどうか。それが彼の為になるのかどうか…」
彼は事故に遭い、病院へ運ばれた。
オレを迎えに来ると言った事を憶えているのかは分からない。
もし憶えていなかったとしたら…。
「手術が上手くいって、目を開けた彼がオレを見た時、どういう反応をするのか…。変に刺激を与えたくないんです。」
「なるほど…。それは一理ありますね。」
仰向けになり、腕で覆うようにしていた目を細く開ければ、頷き賛同をする笹山さんが見える。
「ですが、三宅さんは?」
「え?」
「あなたはそれでいいんですか?本当なら、目を覚ました社長に真っ先に会いたいのではないですか?」
笹山さんはそう言って、気持ちを見透かそうとするようにオレの表情を伺う。
その目は心配しているようにも見えるし、なぜか拒否しているようにも見えた。
(オレを試してる…?)
なぜかそう感じた。
それと同時に、オレの中で答えが決まった。
「御崎さんは…迎えに来ると言ってくれました。だからオレは、やっぱり彼を待ちたい。待ってます。と言っても、ここでですが」
そう言って笑顔を作ると、彼の鋭い目も少し柔らかくなる。
この人も御崎さんを想ってる。
オレとは違った形だけど、笹山さんなりに御崎さんを支えようとしている。
その事が嬉しくて、笹山さんが帰った後もオレは口元を緩ませ、そのまま浅い眠りに落ちていった。
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