アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
1
-
寂しいから触れて欲しくなる。
必要とされたいから体を晒す。
そうして手に入れたいひと時の触れ合いが終わるとまた、寂しくなる。
だいたい毎晩その繰り返しだ。
「じゃあまた」
「おう。気が向いたらまた誘ってやるよ」
だけどオレはそんな弱っちい部分を見せず虚勢を張る。
ビッチだのヤリちんだの、そんな事どうだっていい。
オレはただ、時々オレの中に吹く隙間風を塞ぎたいだけだ。
穴を埋められるなら誰だって、何だっていい。
みんなそんなもんだろ?
愛だ恋だと理由をつけて正当化したいだけじゃねーか。
「あ、ミケちゃんおはよ~」
「ぅす、店長買い出しっすか?」
「そうよ。うちの子達み~んな出勤が遅いから~」
「……耳が痛いんすけど」
気だるさを引きずって店に向かう途中、店長の華さんとバッタリ会った。
彼は所謂オカマだが、その容赦と女の仕草を見れば損所そこらの女よりよっぽど色気がある。
その証拠に、今スーパーの袋を両手に抱えて歩いてる様はまるでこれから彼氏の夕食を作る彼女と言った幸せそうな雰囲気だ。
……だが袋の中身は女が一人で軽々と持てるような重さじゃないのは御愛嬌。
「すっげー買ったんすね。1つ持ちますよ」
「あら、ありがとう。だからミケちゃん男らしくて好き~」
「お互いにね」
俺達が働くゲイバー、"テールズ"は、二丁目の一角にひっそりと存在する。
人通りの多い店とは違い、うちの店はほぼ常連客で成り立ってるからのんびりしたもんだ。
「…変わっちゃったわね、二丁目も。」
肩を並べて歩く店長は昔を懐かしむ目で周りを見渡しポツリと呟いた。
でもオレは店長の言う"その頃"を知らない。
「昔はもっと独特の雰囲気があった。この町の入口は見えないベールで仕切られてるみたいだったし、今みたいに観光目的で来てるノンケのお客なんてほとんど居なかったわ」
この話は何度も耳にしている。
酔うと店長は口癖みたいにこの話をするんだ。
「もう酔ってんすか?開店前ですよ?」
「そうじゃないけど…。なんだか最近、無性に昔が懐かしくなるのよね。私達は本当にいつ死んでもおかしくないような生き方をしてるから…。あなたもよ、ミケちゃん」
「え?オレも?」
「ええ。ゲイは皆そう。平均寿命なんてノンケよりもずっと低いんだから。だからあなたも、悔いのない生き方をしなさいよ?ある日突然、昨日まで会ってた誰かが居なくなるなんて珍しくないんだから」
「……歳を取ると小言が増えるって──ってぇ~!」
「誰がババアよ!!私はまだまだ現役です!」
茶化した所で店に着いたオレ達はそのまま開店の準備に入る。
でも何だろう…。
店長からこの話を聞くと、決まって落ち着かなくなるというか…。
「……あ」
傷口が疼くように胸の真ん中がしくしくと泣く。
…あ、ダメだ。また寂しくなってきた。
オレは明かりを付けた看板にそっと手を置き、灯り始めた街の小さなネオン達を眺めため息をついた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
1 / 82