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「はあ……」
「な…、何よ。随分存在感のある溜め息ね…」
今日は平日の夜というせいもあってか客が少なくて静かだ。
それを言い訳にするつもりじゃないけど、やる事がないとあの人のことばかり考えてしまう。
「華さん……オレ変なのかな…。なんか溜め息ばっか出るんですよ」
「別にいいじゃない。だってそれ、恋煩いの溜め息でしょ?」
「…………はい!?そんなの分かるんすか!?」
「分かるわよ~。何年"女"やってると思ってるの?それで?」
「"それで"??」
「どんな感じなの?その彼と」
「付き合ってる訳じゃないんですけど…でも悪くない感じ、かな。多分」
一回目で彼を知り、二回目で気になって、三回目で恋をした。
そんな子供みたいな恋愛を自分がするなんて想像もしてなかったオレはしどろもどろになりながら華さんにポツリポツリと話した。
きっと顔も真っ赤だろう。
「へぇ~。いい感じなんじゃない?だったら思い切って気持ちを伝えてみたら?」
「む、無理ですよ!元々ノンケだから恋愛対象としては見てなさそうだし……。第一、今の関係を壊したくないんです。オレが下手に迫って彼が引いたら…」
御崎さんは完全に遊びだろう。だったらいつか気が付く時がくる。
"自分が抱いてるのは男"だって。
そうなるのが今は怖くてたまらない。
「でも次の日も一緒に居たんでしょ?」
「はい…。いつもならオレが起きる前に部屋を出てるんですけど、この前は居て…」
目が覚めたらすぐ側に彼の寝顔があって心臓が止まるかと思った。
その日は珍しく休みだったのが理由だろうけど、それでも自分の気持ちに気付いたオレはドキドキしながら彼の腕の中で幸せを噛み締めた。
チェックアウトをしてからは一緒に食事をして少し街をぶらついて…。
彼にとっては何でもない事なんだろうけど、その日オレ達はデートをしたと言っても過言じゃない。
「いけると思うけどな~」
「…いいんですよ、このままで。これ以上望んだらきっと駄目になるから…」
高望みをすればせっかく手に入れたものを全て失う。
すっかり臆病になった今のオレを見たら、昔のオレはきっと笑うだろう。
だけどどうしても前進する勇気は出ない。
「お!なんだなんだ~!今夜は俺の貸し切りか~?」
オレが華さんと話してる間に唯一いたお客が帰り、程なくして現れた声の主は近藤さんだった。
この人には週末も平日も関係ないらしい。
例えるなら、天気予報も予期せぬ嵐。
そんな彼をキャスト達が入口で歓迎の声を上げる。
「あら、近藤さ~ん!そうよ。あなたの為に貸し切りにしといたんだから!」
「よく言うぜ~!でもま、しょうが無いから今夜は飲むか!」
店のドアを振り返り、近藤さんは誰かに向かってそう言うと呆れ果てた声が返ってくる。
今夜は珍しく連れがいるみたいだ。
「"今夜も"だろ?ったく、なんで選りに選ってこの店で飲まなきゃなんねえんだ…」
「あ!オーナーじゃな~い!」
「やだ本当!ミケちゃんが潰れた日以来よね?」
(え……オーナー!?)
オレは初めて見るオーナーにいきなり来た緊張で惚けていたが、オネエ達の黄色い声に記憶を掘り起こされ助けてもらった"らしい"事を思い出した。
「マジか…。あ、オレ礼言わなきゃ…!」
「そう言えばそんな事もあったわね。滅多に店に顔出さない人だから今の内に言っときなさい」
「はい」
華さんに後押しされたオレは胸の鼓動を早ませながら背を向けるオーナーに近づいた。
オレの中ではもはやツチノコ。都市伝説に限りなく近い存在が今目の前にいる。
そう思うと自然に声が少し上擦った。
「あの…この前は────っひぇ!?」
「…………」
初めて恋というものを体験中のオレは、とうとう頭がおかしくなったらしい。
まさか幻覚を見るなんて……。
「ミケちゃんったらどこから声出してんのよ~。でもちゃんと会うのは初めてよね?この人がテールズのオーナー、"御崎洋輔"さんよ」
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