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…だから、サヨナラ。1
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「おはようミケちゃん!」
「…おはようございます」
「熱どう?下がった?」
「いえ…。でも微熱なんで大丈夫です。迷惑かけてすみません」
病は気から。
誰が言い出したか知らないけど昔の人の言葉は侮れない。
毎日後悔の念に蝕まれ、それでも今の関係を清算できず悩むオレは、その言葉の真実味を実感していた。
「ちゃんと病院へは行ったの?薬は?」
「ちゃんと行きましたよ。でもいまいち効き目がトロいって言うか…。明日別の薬に変えてもらいます」
「うん。それがいいわ。じゃあ今夜もアルコールは禁止よ?しつこく勧める客が居たら言いなさい。私が懲らしめてあげるから♡」
「華さん…………笑顔、怖いっす」
「なあに?」
「!いえ、何も…」
元々よく風邪はひく方だ。
でも今回の風邪は酷い。インフルエンザでも無いのに、かれこれ一週間近く微熱が続いて気怠い。
原因は抵抗力の弱さ……だけじゃないと思う。
「……ねぇ。ミケちゃんの好きな人って…もしかしてオーナー?」
「っ…!?な、何言ってんすか?いきなり…」
「前にオーナーが来た時にね……。二人の雰囲気を見てピンときたの」
「…………当たりです」
この人は本当に鋭い。
だからこそこの店を切り盛り出来てる訳だし客にも人気がある。
そんな人を騙せる自信もないオレは苦笑いしながら素直に白状した。
「誰がどんな人と付き合おうと他人が口出しする事じゃないわよね。でもあんただから敢えて言わせてもらうわ。あの人だけは止めときなさい。傷つくだけよ」
「それって……結婚してるから?」
「知ってたの!?」
「この前店に来た時、指輪してるとこ見ちゃって…」
「あぁ…そう言えばしてたわね。見たのはあれが初めて?」
「……はい。でもその時にはもう…」
「退くに退けなかったのね…」
彼女の声は同じ痛みを知っているかのようで喉の奥が締め付けられ、オレは黙って頷いた。
そして僅かな希望を灯す。
こういう時どうするばいいのか彼女なら知ってるかも知れない。
「オレ…っ」
「"どうすればいいか"は聞かないでね。私には答えられない。こういう恋愛に正解なんてないもの。モラルならあるけど、そんな理由だけで答えを出したって苦しむのは自分なんだから…。ちゃんと自分で納得出来る答えを見つけるの」
「ですよ、ね。すみません」
「でも…辛いわよね。わかるわ」
「……オレ、看板出してきます!そろそろ時間だし」
「うん…。お願い」
突き放すみたいな言い方の後の、彼女は精一杯の優しさをくれた。
この苦しみを分かってくれる人がいる。
それだけで重く沈んでいた気分が随分軽くなった。
だったらオレは落ち込んでばかりいないで笑わなきゃ。
無理矢理でもいい。
笑ってたらその内本当に笑えるんじゃないかって、淡い期待を抱き空元気に笑ってみせた。
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