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もうすぐ夕方。
店に行く時間だと言うのに、病院から帰って来てからずっとぼんやりしていた。
決して何もしなかったという訳じゃない。
何も手に付かなかったと言うのが正しい。
「……もしもし、御崎さん?」
『珍しいな。お前からかけてくるなんて初めてじゃないか?』
彼に会いたい。
困惑する中その意識だけは繰り返し沸き起こり、大した考えもなくオレは初めて彼に電話をかけていた。
「忙しい?」
『あー、そうだな。早めに済ませてくれ。要件は?』
「…………会いたい、です」
会ってどうなるものでもない。
話した所で彼は慰め、励ましてくれるような人じゃない。
それでも心は"御崎さんに会いたい"と喚く。
『今夜か?』
「うん」
『悪いが今夜は忙しい。と言うより、しばらく会えそうにない。ゴタゴタしててな…』
「っ……そっか…。なら…仕方ないね」
『一体どうしたんだ?お前最近変だぞ?』
「ん……。何でもない、何でも…」
こんなの何でもない。
検査するだけだ。どうってこと無い。
そう何度も言い聞かせた。
「忙しいのに電話してゴメンね?じゃあ……」
『──待て。お前、泣いてねーか?』
「え…?」
電話を切ろうとしたオレは彼の言葉に驚き、促されるように鏡を見た。
……泣いてる。
自分では全く気付かない内に涙が溢れている。
「違うよ。風邪気味だから鼻声になってるだけ」
彼に知られたくない。
そう思って慌てて誤魔化すと、彼はしばらく無言になって再び声が聴こえた。
『……3時頃になるぞ』
「え?」
『だからお前の家へ行く。前にお前を降ろしたコンビニに着いたら電話する。寝るなよ』
「いいの…?」
『いいから言ってんだ。切るぞ』
「うん…!また後で」
喜びが素直すぎるくらい声に表れ、少し顔が熱くなった。
「ガキじゃあるまいし…」
そう自分を卑下しながらも胸を踊らせ、この勢いに乗じて次に電話をかける。
「あ、華さん?準備中にすみません。ちょっと話があるんですけど…今日、早めに店へ来れます?」
この先どうなるかなんて分からない。
だからこの人にだけは伝えよう。
人はいつどうなってしまうかなんて誰にも分からないのだから。
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