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10 ※三人称
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「…!」
音声案内が聴こえる間もなくミケと繋がる手段を絶たれ、御崎は益々怪訝な目を付ける。
「お前……本当は知ってんだろ」
「何が?」
「……、とぼけんじゃねえ!!」
「──オーナー!?ちょっと何やってんの!ママを離して!」
憤りで我を忘れ、御崎は客が居るにも関わらずカウンターから身を乗り出し華の胸ぐらを掴み寄せた。
その拍子に華が持っていたグラスが割れ、事態に気付いたキャスト達が慌てて二人に駆け寄る。
「オーナーったら飲み過ぎよ?ほら、裏で休んで。驚かせちゃってごめんなさいね、皆さん。お詫びに一杯奢るわ。キャサリンちゃん、後お願い」
「は、は~い…!」
凍り付いたその場の空気を誤魔化すと自分の胸ぐらを掴む手を諭し、華は御崎を調理場へと引き入れた。
「あんたそれでも大人!?場所を考えなさいよ!自分の店でしょ!?」
「……わりぃ」
冷静さを取り戻した御崎は華に小さく詫びる。
元から融通の利かない性格ではあったが簡単にキレる様な人間ではなかった彼の豹変に驚いた華だったが、一番驚いていたのは当の本人だ。
「一体どうしちゃったの?従業員がたった一人減っただけじゃない。そんなにムキになる必要がある?」
「俺にはある」
「そう…。だったら余計にさっさと忘れちゃいなさい。どうしようもないんだから」
「華、頼む。あいつの居場所を教えてくれ」
「だから知らないってば、執拗いわね」
「そんなはずねえだろ。あいつは誰よりもお前のことを信頼してた。だから何かあれば必ずお前に相談する」
「…………」
華は自分に向けられる真剣な彼の眼差しを測るようにじっと見つめた。
御崎の言葉のどこまでが本気でどこからが意地なのか。
ゲイを嫌っているだけでなく、御崎洋介という男なだけに簡単には気を許せない。
都合が悪くなれば容易く他人を切り捨てる情の無い男に、これ以上ミケに深入りさせるわけにはいかなかった。
傷付くのは御崎じゃない。奇しくも彼に純粋な想いを抱いてしまったミケの方だからだ。
「あんたさ、今更彼に会ってどうするの?」
「分からねえ…。だが約束した。一段落したら連絡するってな」
「それ、ミケちゃんは了承したの?待ってるって言った?」
「…いや……」
「だったら完全に独りよがりね。それに彼はもう別の生活を送ってるの。あんたみたいな身勝手で冷たい男じゃなく、とっても優しくていつでもミケちゃんの側にいてくれる人とね。だからあんたは用なしよ」
「…………嘘だ。そんな事、絶対にありえねえ」
「!…なんでそう言い切れるの?」
「あいつはまるで野良猫だ、安易に人には靡かねえ。そんな奴が一度気に入った餌の味をそう簡単に忘れられるわけねえだろ。今頃腹空かせて鳴いてるはずだ」
最後に会った時、ミケは別れ際に泣いていた。
その様子を確かめた訳ではないないが、自分を呼ぶ彼の声があまりに悲痛な印象を与えていた。
「この間、初めて俺にワガママを言いやがった。"帰るな"って……、本当は居てやりかった。でもそれが不可能な状況だったんだ」
「後悔、してるの…?」
「いや。だがそうしない為にもこのまま終わらせる気はねえ。一回餌をやったんなら最後まで面倒見ねえと駄目だろ?野良って奴は」
単なる興味本位で近づけばいつしか魅了される。
そうなる事を心のどこかで望んでいたのかもしれない。
ぐったりと弱り果てていた彼を介抱したその日から自分の中に根付いた"何か"。
それが一体何なのか、彼自身はもう気付いている。
「……この世の中は良い事ばかりじゃない。あんたが予想もしなかった事が起こるかも…。それでも彼を捨てないって約束できる?」
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