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雲間に覗く 1
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「三宅さん。体温計止まりました?」
「あ、はい」
あまりに穏やかな日差しが入ってきた。
オレは検温中なのも忘れてさっきまで降り出しそうだった曇空を眺め、看護師の声で我に返る。
最近こうしてぼんやりする時間が増えてきた。
「あぁ、晴れてきましたね。天気予報では小雨が降るって言ってたのに」
「ですね。外はまだ寒いんだろうけど、こうして部屋の中にいるとあったかくてすぐ眠くなっちゃって…」
「あ、ダメですよ~。お昼に寝すぎちゃうとまた夜眠れなくなりますから」
「はーい」
「ほんとに分かってます?後で様子見に来ますからね!」
「えぇ~」
「ほらやっぱり寝る気じゃないですか!」
担当の看護師は暇なオレに付き合って、時々こうして他愛もない話をしてくれる。
それが唯一オレが他人と話す時間だ。
「後で点滴取り替えに来ますね。寝ちゃダメですよ?」
「もー、分かってますって」
出ていく前にもう一度釘を指し彼女が立ち去ると、この部屋はまた静かになった。
面会に来る人はいない。
迷惑をかけそうだから華さんにすら告げていないこの病院で、オレは一人静かな時間を過ごしてる。
たまにある変化と言えば体調不良か、窓に切り取られた空だ。
風に流れる雲がくっついては様々な形を織り成し、やがて離れていく。
それが何故か人と人との関係性にも似ているなんて考えてしまう程退屈で何もない日々だ。
「何してるんだろ……」
ポツリと呟いた後、チクッと胸に何かが刺さった。
未練がましくてカッコ悪い。
それでもオレは今日もポカポカと暖かい部屋の中から空を眺めて彼を想う。
あなたは今…笑っていますか?
「…!」
静寂の中思い耽っていたオレは突然、"コンコン"と鳴り響いたドアをノックする音に引き戻された。
それは少し遠慮がちで小さかったから気のせいかと思ったけど、ドアをじっと見ているとまた"コンコン"っと音がする。
「……はい」
入室許可を必要としたその音の主はオレが返事をしてもすぐには入ってこようとせず、子供のイタズラかとさえ疑える程の時間を置いてやっと姿を見せた。
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