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「…ケホっ」
「まだ咳が出ますね…。呼吸はどうですか?」
「はい…、だいぶ楽になりましたから平気です」
御崎さんがこの病室を訪れてからどれくらい経っただろう。
翌日から高熱がしばらく続き、一日の大半を眠って過ごしたオレには今日が何日なのかも分からない。
もとより療養してるオレには日付けなんか関係ないんだけど…。
「この病院の桜、そろそろ咲きます?」
「そうですね。今週末辺りだろうって先生は言ってましたけど……、!あの……」
「…?」
桜で何かを思い出したらしい。
しかしその割りにはすぐ話題には触れようとせず、だけどもったいぶってるわけじゃ無さそうな様子にオレは首を傾げる。
「前にここへ来た男の人なんですが……」
「!…何かありました?」
この病室を訪ねて来た人と言えば御崎さんしか居ない。
あれきり何の音沙汰もなく、今度こそ彼との接点は途切れたとばかり思っていたオレは、不意打ちな話題に少し身構え続きを待った。
「特に何をしたわけでもないんですが……。私が気付いた限りでは毎日来てるんです。この病院に」
「え!?だけど…」
「はい。この部屋には来てないはずです。…でも」
彼女はそう言いかけて窓の外に視線を移す。
言葉の全てを聞かなくてもその行動だけで彼女が何を言いたいのかすぐに分かった。
「ここから中庭が少しだけ見えますよね。いくつかあるベンチの一つがちょうど見えて──三宅さん!?」
「大丈夫。一人で立てますから」
オレは看護士の静止を振り切り、ベッドから降りて窓のそばに歩み寄った。
そして彼女の言う中庭を見下ろすと確かにベンチが見える。
……そこにただ座ってこの部屋を見上げている御崎さんの姿も。
「何で……」
そこまで彼がこだわる理由が何なのか。
そんなに言いたい事があるんだろうか。
遠すぎてその表情までは確認できないけど、彼は彼なりに譲れないものがあるのかもしれない。
「…………すみません。お願いしたいことがあるんですが」
もう一度彼と会おう。
そしてちゃんと終わりにするんだ。
彼の為にも、自分の為にも──。
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