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「冗談…、だよな?」
「急性骨髄性白血病って…聞いたことある?オレ、それなんだって。確かに体調は良くないけどさ…。オレ自身、こうして病院のベッドの上で一日を過ごすようになった今でもまだ信じられないんだ。自分がもうすぐ死ぬだなんて……」
何かの間違いじゃないのか。間違いであって欲しい。
そう毎日願うけど、オレの体は日々着実に弱っていった。
毎食後に出される薬も治す為のものではなく進行を遅らせるもの。
そんな物、別れを惜しむ人もいないオレに何の意味があるのかと疑問視してたけど、御崎さんと今日会った事で"なるほど"と理解できた。
きっと最後にもう一度、少しでも元気なままの姿で彼に会う為だ。
「まだ…死ぬなんて決まってねえだろ」
「もちろん、骨髄移植で回復する人もいるよ。でもオレの場合は見込みが薄いらしいんだ。例え移植したとしても回復する確率は14%だって言ってたから…。だからさ、"それならオレは残りの時間を静かに過ごしたい"って伝えたんだよ。つまり移植はしないつもり」
「…!何もせずに諦めるつもりか…。詳しくは知らねえが、血縁者なら適合しやすいんじゃなかったか?お前、家族は?」
「っ……いない」
「"いない"…?」
「…いないものはいないんだ。とにかくこの話はもうおしまい。さぁ、他に何か言いたい事とかある?無いならもう帰って」
「おい…ッ!」
「あなたにはまだ"これからが"ある。でもオレにはそれがいつまで残されてるのか分からない。だから……あなたは毎日を大切に生きて。カッコ悪くてもいい、悔いのないように精一杯楽しんで。…オレの事なんか忘れちゃっていいから」
精一杯の笑顔を作り虚勢を張る。
これがどんなにきつくて苦しいか、きっと御崎さんには分からないだろう。
何事も自分本意で動かし、臆することを知らない。
そんな彼だからこそ、オレは惹かれたんだと思う。
彼はオレが持っていないものをたくさん持っている。
それに気付かされるたびに羨望と嫉妬が心の中に渦巻く自分自身をどれだけ醜いと感じたか。
だからこそオレは綺麗な偽りの言葉で飾るしかなかった。
「っ…………、もう止めろよ」
「え?」
「忘れてくれ?そんな事微塵も思っちゃいないくせに…。人一倍寂しがりなお前が今この状況で簡単に本音を吐かない事くらい分かってる。けどな、もう止めろ。これからは俺が支えてやる」
「っ……!なに…カッコつけて…」
「そのセリフ、そのままお前に返してやるよ。"カッコ悪くてもいい"って言ったのは自分だろ?だったらみっともなくても何でも足掻いてみろよ。ちゃんと側にいてやるから」
サラサラとオレの髪を撫でる手はオレの弱い部分を覆い隠す蔦を解き、剥き出しになった脆く繊細な場所に触れる。
すると、オレの今までの強気な建前は呆気なく崩れてしまい、途端に目を逸らし続けてきた"恐怖"が目前へと迫った。
「オレ……っ、怖い…。死にたくない…っ」
「ん、それでいい」
「ずっとあなたに会いたくて…っ、でも迷惑かけたくないし嫌われるかもって…、それにこんな姿っ…、見られたくなくて…」
「あ~、確かに痩せたな。でもお前はお前のまま。俺を振り回しといて急にそっぽを向く猫みたいな奴だ」
「御崎…さ…っ」
「ほら素直に泣いとけ。泣けるだけ泣いて、明日からはもう泣くな。これからの事をちゃんと考えんだからそんな暇ねえぞー」
彼は強い。本当に強い。
余命に怯えるだけのオレ相手に飄々とした口ぶりで上手く受け止めてくれてる。
それは優しく包み込んでくれる春の温もりにも似て、手放し難く幸せな気持ちにさせてくれるものだった。
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