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9 ※三人称
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夕日が沈み、町に明かりが灯り出した頃、荒々しいエンジン音を轟かせる一台の車がテールズの前に止まった。
BGMが流れる店内にまで聴こえるその轟音でキャスト達は誰が来たのかすぐに察しがつく。
「まだこんなに早い時間なのに珍し……!何かあったの?」
ドアを開けた御崎の顔色は悪かった。
薄暗い店内でもそれが分かる程血の気が引き、嫌でも良からぬ事が華の頭を過る。
「華……ちょっと来い。話がある」
周りの目を取り繕う余裕もない様子の御崎は有無を言わさず華をカウンターから連れ出し二階へと上がった。
「何なのよ…!?」
「お前言ったよな…、あいつを見捨てるなって…」
「…ええ。今頃になって気が変わったの?」
「そうじゃねえ…、そうじゃねえよ…!でも…俺はあいつに何をしてやれる…!?」
苦悩に締め付けられた喉の奥から絞り出す彼の声は掠れていた。
彼が無能な人間ではない事を知っているだけに、華は余程切羽詰った状態なのだろうと察し心構えをする。
"何を聞いても動揺しない"
彼女は頭の中でそう言い聞かせ口を開く。
「私はミケちゃんの状況を本当に何も知らないの。だから話して。あんたが知ってる事全部」
「……あいつ……駄目かもしれない…」
「なっ…、何言ってるのよ!?」
「俺だってそんな風に思いたくねえよ!!でもあいつ…最近よく高熱を出すんだ…。今日なんて肺炎を起こしかけてるからって面会を断られた。それも今回が初めてじゃない…。俺…こんな事が起こるたびに毎回思うんだ。このまま死ぬんじゃないかって…」
御崎はミケの前では絶対に零さない不安な胸の内をポツリポツリと漏らしていく。
ミケの病気の事やその進行性。そして日々の様子。
その全てが華の予想を上回るものだったが、御崎を落ち着かせる為、自分も取り乱すわけにはいかない。
彼女は口をついて出そうになる嘆声を飲み込み、静かに深呼吸をした。
「骨髄バンクへの申請は?」
「…もう済ませた。だが今のところ適合者はいないらしい……っくそ!あいつに血縁者がいればまだ遣り様もあるのに、今の俺は弱っていくあいつをただ見てることしかできねえんだ…!」
側にいながらも苦しむミケには何もしてやれず、弱音を吐く彼にかける言葉は全て御崎自身の願望であり、それを押し付けているに過ぎない。
そんな自分自身に憤りを覚え、けれども彼との未来を諦めも切れず、御崎は持て余していた感情の一部を吐き出すと調理場にあるウイスキーのストックに手を伸ばした。
封を開けた瓶にそのまま口を付け数回喉を上下させ、喉が焼け付く感覚に息を止める。
ミケが病を患ったのは、今まで自分が犯してきた事全ての罰かもしれない。
そんな根拠も関連性の無い考えさえ浮かび上がった頃、華が思い出したように声を上げた。
「あっ……、いるはずよ?」
「……何が」
「ミケちゃんの家族!カミングアウトをして家を出たって話、本人の口から聞いた事あるもの!」
「っ、本当か!?」
「え、ええ。ただ……縁を切ったって言ってたからどんな反応をされるかは…。それに実家の住所は本人しか知らないけど、あの子多分言わないわよ」
「そんなもん、やってみなけりゃどうなるかなんて分かんねえだろ!連絡先は……、華!ミケの履歴書を出せ。身分証のコピーに何か載ってるはずだ!」
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