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「ミケ……。こっち向けよ…。おい、ミケ猫」
中に入る事もできた。
だがその日は勇太の体調が悪く、入室の許可はもらえ無かった。
透明のガラス越しに部屋にいる勇太に視線を送ったが、ベッドを覆う厚いビニールがあいつの姿を隠す。
「勇太……」
届くはずも無い。
視線も声も、俺が腹の底で思っている本音も。
こんな日は何度もあった。
だから分かっているつもりだったが、なぜかこの日は離れることが出来ずしばらくの間ぼんやりと勇太を見つめ続けた。
もしかしたら、生きてるあいつを見るのはこれが最後かも知れない。
縁起でもない考えがふと浮かんだ頃、ベッドの上に横たわるあいつが少し身動ぐ。
(なんだ…?)
俺は食い入るように目を凝らし、力なく動く勇太の動作をかんさつしていると手がビニールにピタリと張り付いた。
それは、あいつが俺に気づいたという合図かもしれない。
見舞いに来たが入室できなかった俺を気にかけたんだろうと咄嗟にそう思ったが、同時に何となく嫌な予感もした。
「なんだ……?勇太…どうかし──」
虚しい独り言を言い終わる前にあいつの手が少し下に沈んだ。
そしてそれからどんどん沈んでゆき、その手が布団の上に着く直前、部屋の中から嫌な音が鳴り響いた。
「ウソだろ…っ!?おい、誰か来てくれ…!!」
掠れながら叫ぶ俺の声を聞き付け、数人の看護師が部屋に入った。
そして勇太との唯一の繋がりであるガラス窓がカーテンで遮られる。
それからすぐに医者も駆けつけたが、しばらくの間ばたばたと慌ただしい音だけが中から聞こえていた。
だが、これも初めてじゃない。
あいつは何度も危ない状況を乗り越えてきた。
そうして面会が出来るようになれば、いつも開口一番に申し訳なさそうな笑顔を見せていた。
そして俺は、"こんな事は今回で最後だ"とその都度答えた。
でも本当はこう思う。
これが最後なんじゃないか。
こいつの目を見て話せる機会は二度と来ないんじゃないか、と。
(…ああ。あいつは手を挙げたんじゃなく、俺に手を伸ばしてたのか…)
あの手は痛みと恐怖に耐えかね、俺に助けを求めていたんだと気付いた時、自分の無力さ泣きたくなった。
俺に何が出来る?あいつに何をしてやれる?
あの日からずっと、俺はその事ばかりを考えている。
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