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今日は清々しいくらい青空が広がって、なんだか暖かそうだ。
でも所詮それは部屋の中から見る限りの感想で、12月ともなればきっと外は寒いのだろう。
そんな事をぼんやりと考えていたら、いつの間に起きたのか御崎さんがシャツのボタンを締めながらリビングにやって来た。
「あ、おはよ。もうそんな時間?」
「いや、今日は昼前に店へ顔を出す。これからの営業方針を変更するミーティングがあるんだ」
ここ数日帰りが遅く、昨日も帰ってきたのが3時すぎの御崎さんは目の下にうっすらと隈を作り疲れた表情でコーヒーを淹れた。
「御崎さん……大丈夫?疲れてるみたいだけど」
「まーな。でも忙しいのは今だけだ。ずっとじゃない。それよりお前、薬飲んだのか?今日から抗がん剤だろ?」
「うん……。まだ」
「まだ?なんで飲まない?」
オレは退院後、投薬と定期検診で様子をみることになってる。
サイクルとしてはATRAを1ヶ月、抗がん剤を1ヶ月、休薬1ヶ月。
これを2年間続ける。
だけど続けたからと言って再発が免れる訳じゃないし、かと言って薬を飲まなかったからと言って再発する訳でもない。
セカンドオピニオンという手もあったけど、オレのガン細胞は活発らしく維持療法を勧められて今に至る。
でもこれが結構キツい。
病院での治療ほどじゃないにしろ、毎回副作用に見舞われて心身共にストレスが溜まる。
「ATRAは軽い頭痛だけだったけど……。でも抗がん剤はもっと副作用がキツいと思う。入院してる時もそうだったし…」
「だからって飲まねえわけにはいかねぇんだぞ」
「そんなの、言われなくたって分かってるよ。でも……」
既に長い間治療を続けてきたオレは生きている事に感謝しながら嫌気も差していた。
退院したってまだ薬の副作用と付き合っていかなきゃならない。
そしてそれが確実に完治するものでもないから、尚更不安も募る。
「……恐いか?」
不意に彼がそう訊ねてきたけど、何度も飲もうとして今だ成し遂げられていない薬を手の中でギュッと握り、オレは何も答えないまま再び外を眺めた。
すると御崎もオレの隣に来て同じように外を眺めた。
「?」
「今日1日、お前といてやる」
「えっ!?いいよ!大事なミーティングも入ってるんだろ!?」
「まぁそうだが、だからと言って放っておいたらお前、薬飲まねえかもしれねえし」
驚いたオレを横目に見て彼はニヤッと笑う。
それがまるで悪戯っ子のような裏を持つ笑顔で、彼の意図に気付いたオレはため息を吐く。
「…アンタって本当、人を扱うのが上手いよね。飲むよ。飲めばいいんだろ?だから仕事に行ってよ」
彼がオレの為に何かを諦めたり犠牲にするのを嫌がってるから、多分オレがそう言うと分ってて言ったんだと思う。
でも決して嘘じゃない。
真っ直ぐ見つめてくる彼の目を見てそう感じ、オレは手の中で少し溶けだした薬を飲んでみせた。
「ほら、飲んだよ。これでいいんでしょ」
「いい子だ。けどなんかあったらすぐ連絡しろよ?」
「はいはい。今日も帰りは遅くなる?」
「いいや、20時までには戻る予定だ。久々に一緒に飯食うか?」
「…!うん」
一緒に住んでいてもなかなか時間を共有できない事に不満を抱いてたオレには何よりも嬉しい申し出だった。
そして何よりも彼が側にいてくれるだけで安心できる。
いつもは憂鬱な送り出しを笑顔で終えたオレは、久しぶりに2人で過ごす時間を楽しみにしながらベッドで横になった。
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