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────声がした。
白く混濁した意識の中でその声はまるで意識を引き戻そうとしてるみたいに感じて、オレは鉛みたいに重い目蓋を開けた。
そうして視界に映ったのは白い天井。白いカーテン。そして点滴や機械。
それだけ揃えば、自分が今どこにいるのか簡単に察しがつく。
(あぁ……病院に運ばれたんだな…)
少しずつ記憶をかけ集め、オレは一人家で御崎さんの帰りを待っていた時の事を思い出し身震いをした。
徐々に気分が悪くなってしばらくソファーで寝そべっていたけど、体調が戻る所かどんどん悪くなって体が重くなった。
それで何となく嫌な予感がしたオレは壁を伝いながらもなんとか自室に戻りベッドで休んだ。
(最後に見たのは……、確かLINEだ。御崎さん、帰りが遅くなるって…)
いつの間にか日が落ちて暗くなった部屋の中でケータイの画面はやけに眩しく、その光が目の奥を刺すように感じた後、まるでオレの手の中から逃げるようにスルリと床へ落ちた。
そしてなぜか自然に、"オレはこのまま死ぬんだろう"と本気で思った。
恐怖も何も感じず、ただ薄れていく意識の中で死期を悟るだけ。
その時の心境を思い出し、今更ながらに恐くなったオレは彼にたまらなく会いたいと願った。
そしてそれは思わぬ形で叶ってしまう。
「……良くねえ。ちっとも良くねえよ…!」
「……?」
ぼんやりと記憶を遡っていたオレの耳にまた声が聴こえ、思考が遮断された。
最初は誰だか分からないけど女の声だった。
そして今度は男の声。
それも、オレがよく知ってる人のものだ。
(御崎さん…?)
誰と話してるんだろう。
聞き覚えのない女の声は看護師かとも思ったけど、話し方からしてまず初対面じゃない。
御崎さんの苦痛を滲ませたその声を聞くことが出来るのは極限られた人間しかいない。
オレはその主を探そうと辺りをゆっくり見回してみたけど、部屋の中には誰もいなかった。
代わりに少しドアに隙間が出来てるのを見つけ、声は尚もその先から続く。
「もう…あいつとはやっていけねえ」
(っ!?"あいつ"って……)
「あいつ…敗血症だって言われた。病院に運ぶのが後2、3時間遅けりゃ助からなかったそうだ…。つまり、もしあの時俺が勇太の様子を見に行ってなかったら?帰りが2、3時間遅けりゃどうなってた?そう考えてゾッとした。下手すりゃ、俺の帰りが遅いせいであいつ、死ぬかもしれなかったんだぜ…?そこまで責任とれるかよ…っ」
(これ……御崎さんの、本音…?)
その後の会話が聞き取れない程ショックだった。
確かにオレは迷惑ばかりかけてるし、御崎さんの負担になってると思う。
それでも今日までやってこれた。
喧嘩する時もあったけど、その都度ちゃんと話し合って仲直りもできてたはず。
(そう思ってたのはオレだけなのか……?)
意見が食い違い対立するのは互いを知らないから。
でもそのたびに相手を知ることができたと思っていただけに深く傷付き、たまらず泣きたくなった。
…オレは、御崎さんにとって重荷でしかなかったんだ。
「ッ…………」
ふとドアを開ける音が聴こえ、オレは慌てて寝たふりをする。
彼にどんな顔をすればいいか分からない。
なんて声をかければいいか分からない。
「勇太……ごめんな…」
喉の奥からやっと絞り出したようなその声は擦れ、そして苦しんでいた。
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