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「…………」
「さっきから何ブスっとしてんだ」
あり得ない。この人、ホントあり得ないんだけど。
「オレ、何にも聞いてない」
「おう。言ってねーからな」
「~~ッ」
盛り上がる近藤さん達を他所にオレと御崎さんは声を潜めて言葉を交わした。
知ったところで皆は別に何も変わらないだろうけど、何となく知られたくなかったからだ。
「なんで言わなかったの?」
「そりゃ言えねえだろ」
「だからなんで!?」
「自分の店の従業員に手を出したなんて聞こえがわりーだろ?第一、俺の事を知ったらお前だって話に乗ってこなかっただろうし。それに…」
「"それに"?」
「……一晩だけのつもりだった。正直、2度は無いと思ってたからな。敢えて伝える事でもねーだろ」
「っ…!!」
酒の合間に溢れた本音を改めて聞き、胸が締め付けられる。
でも責めることなんてできない。
オレも最初はそのつもりだったから…。
「やっぱり…。そうだと思ったよ」
「ちょっと待て。ちゃんと聞いてたか?"つもりだった"って言ってんだよ」
「え…?」
「だから過去系だ。気が変わったんだよ」
オレの落胆があからさまに声に出たのか、御崎さんはすぐ取り繕うように俯いた顔を覗き込んできた。
いつでも余裕な彼の表情がほんの少し崩れた気がして嬉しくなり、オレのイタズラ心をくすぐる。
「だったら…今は?またオレと寝たい?」
「……そうだな。お前のその生意気な態度を一変させるのは面白いからな」
「…!もー!」
「っくく…、ガキが」
捕まえたかと思えばその手をすり抜け翻弄される。
まるで蝶を追いかけるまだ幼い子猫のような心境にさせられたけど、それはそれで楽しい。
これでいいんだ。これ以上は望まない。望めばきっと……。
「はい、どうぞ──え…」
「…?どうした」
「な、何でもない…」
空になったグラスに水割りを作って差し出すと彼はそれを左手で受け取った。
…………そう。今まで一度も見た事のない、薬指に鈍く指輪が光るその手で。
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