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こんなセリフが吐けるなんて大した自惚れ屋だと言われるならそれでもいい。
とにかくオレははっきり否定して欲しかった。
けど彼は期待とは裏腹に小さく肯定の溜め息を吐く。
「違う……と言いたい所だが、きっかけはお前だ。でも俺達は少々訳ありでな。全部話すからちゃんと聞け、いいな?」
「っ、オレ……っ」
「分かってる。そんなつもりじゃなかったんだろ?これは飽くまで俺が勝手に動いた事だ」
罪悪感を拭うように背中を撫でる彼に頭を預ける。
虚勢を張るのに疲れたオレは、ひんやりと冷えた腕の中に温もりと安らぎを覚えながら彼の声を聴いた。
「俺には親がいない。父親の記憶は全くねえし、母親は俺がまだガキの頃に男を作って出て行ったっきり、生きてんのか死んでんのかも知らねえ。それで代わりに婆ちゃんが育ててくれたんだが、俺が高校に上がってすぐに死んだ。一人になった俺は高校を中退し夜の仕事を始めたんだが、そこのオーナーの紹介で嫁さんの親父さんと知り合った。あの人は会社をいくつも経営してる人で、興味本位に色んな話を聞いてる内にどういう訳か俺をえらく気に入ってな。いつか自分の店を持ちたいって話をしたら、二つ返事で出資してくれたんだ。だが一つだけ条件があった」
「条件…?」
「ああ。それが、"自分の娘と結婚する"事だったんだ。当時、嫁さんには大学生の頃から付き合ってる男がいてな。そいつとどうしても別れさせたかったらしい。でも今時、親の言いなりで結婚するのもどうかと思うだろう?だから俺は嫁さんにある提案をした」
──男と別れる必要はねえ。今まで通り付き合ってればいい。但し、俺もそれなりに好きにさせてもらう。互いに節度を弁え、干渉はしない。そしてこの結婚はお前の親父さんが死ぬまでの間だ──
「それってまるで……」
「ああ。まさに"契約"だ。だから俺は嫁さんに手を出した事はねえし、出したいと思った事すら無い。言わば仕事のパートナーみたいなもんだった。ま、そうできたのは親父さんが末期ガンだって分かってたからなんだが」
「え……っ」
「余命宣告まで受けてたもんだから、嫁さんも最後の親孝行のつもりで俺と結婚したんだろうよ。そしてその"契約"解除がお前の部屋へ行った日、お前が俺を引き止めた日だ。……親父さんが亡くなったって嫁さんが泣きながら電話してきたんだよ。帰らねえわけにはいかないだろ?実際に俺も頭が上がらない程恩のある人だ」
頭の中でパズルが回る。
回りながらくっついて、それはやがて一つの物として形づいていく。
そんな不思議なイメージを浮かばせるくらい、オレと御崎さんの間には何か大きなものの力が働いているように思えた。
──これを、運命とでも言うのだろうか?
「親父さんの四十九日が終わるまではあっという間だった。会社の引き継ぎ、不動産なんかの遺産相続の手続きや関係者への挨拶回り。正直離婚どころじゃなかったんだが、無理を言ってそれも済ませてきた。その上でお前に会おうと決めてたからな。俺なりのケジメだ」
「御崎、さんっ…、あのさ…」
「それなのにお前ときたらどうだ?店は辞めるわ家も引き払って居所も掴めねえ。挙句の果てには華から聞き出せた事なんて"どこかの病院に居る"って事だけだぜ?個人情報だの何だのうるさい世の中でどれだけ苦労してこの病院を探し当てたか……。だからさっさと治してすぐにでも退院しろ。金も住むところも俺がどうにでも──」
「御崎さん!!」
「っ!?なんだよ」
彼は何も知らない。
別れを切り出した原因が自分の婚姻だけだと思ってるらしいけど、それだけじゃない事を。
そしてオレがどうしてここに入院してるのかも。
「話は…分かった。でもオレ…もうあなたとは会わない」
「……そんな顔で言われても説得力ねえな。他に何か問題でもあるのか?」
「……オレも……受けちゃったんだ」
「あ?何を?」
「余命、宣告…。あと一年だって」
「ッ────」
いつも大人の余裕を持ち合わせていた彼の動揺した様子を見たのはこの時が初めてだった。
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