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──もしも勇太が病いを患っていなかったなら。俺達は上手くやっていけただろうか。
無意味な事だと分かっていながらも延々と考えてしまう。
どうやら俺は、いよいよ追い詰められているようだ。
「御崎さん?」
「ん…、何だ」
「今、何考えてる?」
順調に回復の兆しを見せる勇太は体を起こせるまでに至った。
そして俺はと言うと、見舞いに来ているというのに半分上の空だ。
勇太の意識が戻ってから何日も宛のないきっかけが訪れるのをただひたすら待っている。
誰に急かされたわけでも無いのにやけに焦りを感じ、それを押さえ付けるのに必死な俺は勇太に対して素っ気ない態度をとっていた。
「……仕事の事だ」
「そう……」
「…………」
俺の態度の異変に気付いたのか、数日前から俺に対する勇太の接し方がよそよそしい。
気遣っていると言えば聞こえはいいが、俺からすればまるでおどおどしているようで尚更癇に障る。
そして更に勇太が気を遣い、俺がそれにまた腹を立てる。
今の俺達の関係は悪循環に繰り返されていた。
「あ、相変わらず忙しいね。でもあんまり根を詰めると身体壊しちゃうよ?」
「お前に言われたくねえよ」
「はは…、それもそっか」
「「…………」」
途切れがちな会話。
交わらない視線。
側にいても俺達の距離は広がるばかりで、いくら考えたところで打開策は見つかるはずもない。
(早くなんとかしねえと……)
俺の答えは、もう決まっている。
「……あの、さ」
しばらくの沈黙を経て、勇太はおずおずと口を開いた。
「オレ……、セカンドオピニオン…受けようと思うんだけど」
「セカンドオピニオン?」
セカンドオピニオンとは、患者が納得のいく治療法を選択することができるよう、治療の進行状況や次の段階の治療選択などについて担当医とは別に、違う医療機関の医師に「第2の意見」を求めることだ。
これは今の担当医の判断や治療方針を別の角度から見ることもでき、納得して治療を続ける者もいれば、他の治療法に希望を見出したり転院する者もいる。
勇太にとってその時期は最初の退院の時だった。
だがこいつは担当医の話を聞き、自分の意思でセカンドオピニオンを見送ったはずだった。
それがなぜ今更頭に浮かんだのか、俺は意見を仰ぐべく顔を上げて勇太の目を見た。
「うん。実はオレ……地元に戻ろうかなって考えてるんだ。リハビリも兼ねて家の事とか手伝いながら治療を続けるのもいいと思って…。……どう思う?」
「…………」
率直に驚いた。
勇太は遠回しではあったがはっきりと別れを提案してきた。
こいつは俺の様子の異変だけじゃなく、心境の変化にも気付いているのかもしれない。
これが本気かどうかは分からないが、少なくとも俺にとって好都合な提案であることには間違いない。
賛成をすればそれで終わる。
俺は元の生活を取り戻せるんだ。
「────お前の意見は分かった。だが安易に決めていい事じゃねえ。どっちみち今はまだ入院中だ。退院してから話し合えばいいだろ」
格好のチャンスだった。
だが心のどこかでまだ迷いが消えず、俺は咄嗟にその答えを先延ばしにした。
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