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「三宅君。今日はもう上がってええよ」
「え?でもまだ交代の時間じゃ…」
「ええからええから。ほとんど休み無しで無理して働いてもらっとるんやから、たまには早う帰って身体休めたって」
「……ありがとうございます。それじゃあお言葉に甘えて、お先です」
「ああ、お疲れさん。また来週な」
実家に戻った時。
これから先、自分はどうなってしまうんだろうって不安で仕方なかったし、何もかもに無気力だった。
でも母親に心配をかけたくないからとコンビニでバイトを始め、なんとか薬代だけでも自分で稼ぎたくて、短時間ではあるけどとにかく毎日働いた。
そうして過ごしている内に何かしてる時だけは彼の事を思い出さなくなって、作り笑いだけは上手くなったと自分で思う。
だけど正直、体は辛い。
(店長なりの優しさなんだろうけど……)
もう少し勤務日数を調整した方がいいっていう店長の好意はありがたいし最もだと思う。
でも今のオレに必要なのは静養じゃなく、彼を忘れさせてくれる多忙な日々。
オレは退院したその足で実家に戻った。
御崎さんには手紙だけ書き残してきたけど、4ヶ月近く経った今も何の連絡もない。
つまり、オレ達は完全に終わったという事だ。
(御崎さん……今頃何してるんだろう)
彼を思い出すとすぐ目頭がじわりと熱くなり、鼻の奥がツンと痛くなる。
自分から離れといてこんなに未練たらたらなんじゃ世話がない。
まだ春先には程遠い冷たい風に上着のフードを被り、オレは他人に顔を見られない様少し俯き加減で自転車を走らせた。
「ただいま」
「あ、おかえり勇太。いつもより早ない?まさか、体調でも悪なったん?」
「違うよ。たまには早く上がれって店長が。気ぃ使ってくれたんや」
「それやったらええんやけど…」
忘れかけていた関西訛りも自然に蘇る。
田舎はとても温かい場所だ。
いつか冷えきったこの心も温めてくれる。
そう願う毎日だった。
だけどそう簡単にはいかないのが現実。
「あ、そうそう!さっきな、あの人から連絡があったで」
「え?」
(あの人……?)
「あんた、こっちに戻ってきてから何にも言わへんかったから私も聞かんかったけど、ほんまはどうなってるんか気にしとったんよ」
「ちょっと待って…!あの人って……誰のこと?」
「そんなん決まっとるやろ?御崎さんや」
「っ!?」
もうあれから半年近く経っている。
もしかしたら連絡がくるかも…なんて期待は3ヶ月が過ぎた頃消えた。
それなのになんで今頃?
無駄な罪悪感でも感じてるのか礼儀か何かの一つなのか、オレは頭の中が真っ白になりながら辛うじて言葉を返した。
「なんか……言うとった…?」
「そうやねぇ…。あ、そうそう!勇太に代わってくれって言われたからバイトに行っとるって伝えたらえらい驚いとったわ」
「……それだけ?」
「あとは、また電話するって言うとったよ。でもあんたからかけたったら?」
「そう…やな…。後で電話するわ」
笑顔の母さんの横をすり抜け、オレは適当な返事をして部屋に逃げ込んだ。
彼の電話番号は知ってる。
電源を落としたままのケータイに入ってる。
何度も処分しようと思った。
けど、今や2人の唯一の繋がりでもあるこのケータイをどうしても捨てる事が出来なかった。
物分りが良い振りをして離れたけど、結局オレは未練がましくそんな物にしがみ付いてる。
カッコ悪い。
ベッドの片隅にあるチェストの上で薄らと埃を被ったケータイを手に取り、電源を入れる。
画面が立ち上がるまでの間、彼の思惑と自分の困惑が交互に頭を駆け巡り、ほんの数10秒が数分にも思えた。
何を話せばいい?
何を言われる?
心臓がバクバクと暴れ出し、臆病に震える指先は何の覚悟もないまま御崎さんの番号を表示させた。
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