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(探してた…?オレを?)
オーバーなリアクションが何とも胡散臭いこの男にオレは目を細めた。
テールズの時の客かとも考えたけど、それなら本名なんて知らないはずだ。
そもそもオレの顔すら知らない様子だったし、恐らく互いに初対面だろう。
そこまで考えたところで尚更疑問が湧く。
「あんた……誰?」
「あ、申し遅れました!僕は笹山と言います」
「……それで?」
「はい?」
「オレ、バイト中なんですけど」
「はい!そう見えますね」
「…………」
新手の嫌がらせか?
そう思わせるのに十分すぎる程、この男の言動はオレを苛立たせる。
心身ともに疲れてるせいかとても相手をしてやれる余裕なんてないオレは、さっさと追い払ってしまおうと決めた。
「何の用か知らんけど、こっちはバイト中なんや。邪魔せんとってくれる?」
例えコンビニの客だろうが何だろうがどうだっていい。
オレは吐き捨てるように男を拒絶し、背を向けてタバコの棚を整理し始めたが、男は尚も立ち去ろうとはしなかった。
「あ…すみません!そうですよね、仕事中ですよね!…でも、今すぐある場所に来て欲しいです」
「はぁ…?どこへ?」
「東京です」
「!!……あんた、もしかして…」
"東京"。
この言葉を聞いてオレの心臓は大きく跳ね上がった。
向こうで関わった人間と言えばごく限られてる。
しかも今目の前にいる男はスーツ姿だが、よく見ると会社員といった雰囲気じゃない。
人当たりの良さそうな笑顔を浮かべてるけどどこか裏がある。
そんな人間ばかりの世界にいたオレは、この男を送り込んだ人物の察しが付き、その名前を聞く為に再び男を振り返った。
「御崎洋輔をご存知ですよね?僕は──」
「帰れ」
「え?あ、待って下さい…!最後まで話を──」
「ええから帰れよ!オレはもう何の関係もないんや!!」
彼の名前を聞いた途端頭に血が上り、オレは場所も考えずに声を荒らげた。
すると、騒ぎを聞きつけた店長が驚いた様子で店の奥から顔を出した。
「どしたんや三宅君!?何かあったんか!?」
「あ、いえ……すみません。なんでもないんです」
情けない。
いくら御崎さんの名前を聞いたからと言って場所も考えずに取り乱してしまい、オレはすぐ様店長に謝った。
すると何を思ったか、男は俺達の間に割って入り深々と頭を下げる。
「お騒がせして申し訳ありません。店長さんでいらっしゃいますか?」
「ん?そうやけど……」
「お仕事中に大変申し訳ありませんが、三宅さんを早退させてもらえませんか?1分1秒を争う急用がありまして」
オレと話しても拉致があかないと判断したのか、男は神妙な面持ちで直接店長に話を持ちかけてきた。
さすがにここまで身勝手だと怒りを通り越して呆れてくる。
「おいあんた!何勝手な事言うとんや!?第一オレは行くなんて一言も──」
「まぁまぁ三宅君、落ち着きや。何や、事情がありそうやな。それにほんまに急いどるみたいやし、今日はもう上がってええよ」
「っ、でも…!」
「どっちみち、あと1時間もせん内に上がる時間やろ。ええから行ってきいや」
「……ほんまにすみません」
最悪だ。
店で騒いだ挙げ句、訳も分からず早退させてもらう羽目になるなんて。
いたたまれない気持ちと腹立たしさを抱え店を出ると、さっきの男は自分の車の側でオレを待ち構えてた。
「三宅さん早く乗って下さい!」
「っざけんな!誰が付いてくか!」
「そんな事言わずにお願いします!これが最後かも知れないんです!どうか会ってやって下さい!」
「……"最後"?」
嫌な言葉が聴こえ、男を振り切ったはずのオレの足がピタリと地面に貼り付いたように止まる。
「……はい。実は、あなたを迎えに行く予定だった前の晩、御崎は事故に合いまして…」
(え──?)
「嘘…だろ…?」
「本当なんです…。飲酒もしてなかったのになぜか急にハンドルを切って中央分離帯に激突したらしいんです。詳しい原因はまだ調査中なんですが…」
「容態は……」
「3日間意識不明でした。その後何とか意識を取り戻しはしたんですが、怪我の程度が酷くて苦しむだけなんでほとんど薬で眠らせてます。回復の見込みは明日行われる手術の結果次第らしくて…。あなたのお話は聞いていたので出来ればもっと早くお知らせしたかったのですが、その……まさか男性だとは思わなくて、見つけ出すのに時間がかかってしまいました」
「彼……死ぬの?」
「まだ何とも……。でもこれだけは信じてやって下さい。御崎はあなたを迎えに来るつもりでした。その為に会社の経営方針まで変えて、自分がやっていた業務を任せられる人材を育成してきたんですから。あの人間不信の社長からすれば考えられなかった事なんです。自分が築き上げてきた物を他人に任せるなんて…」
御崎さんは"ちゃんと説明する"と言ってた。
それは多分、この事なんだろう。
彼のことだ、きっと寝る間も惜しんで働き詰めだったに違いない。
他人に合わせる事が嫌いで何でも自分の思い通りにしたい彼がオレの為に自分の生活を変化させ、それが彼の人生をも左右させた。
……だったらオレのせいなんじゃないか?
彼が事故を起こしたのは疲れてたせいで、そこまで働き詰めだったのはオレとやり直す為……?
「…………バカじゃねーの」
「三宅、さん…?」
「放っとけばいいのに……、こんな面倒くさい猫なんかさっさと捨てりゃいいのに…ッ」
これまでに感じた事のない恐怖で目の前が真っ暗になった。
彼が死ぬかもしれない。
突然突き付けられた現実をどう受け止めたらいいのか分からず、今自分が立っているのか座っているのかも理解出来ずにしばらく呆然としてたと思う。
そしてどれくらい時間がたったのか、男に肩を揺すられてやっと我に返った時には人目も憚(はばか)らず地面にへたり込み、ボロボロと涙を流していた。
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