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駅に着いたオレ達はそのまま新幹線に飛び乗り、やがて東京駅へと到着した。
人の流れに押されるように踏み出したその一歩は驚く程重い。
オレは足下をもたつかせながら何とか人並みを避けてホームを歩いた。
そんなオレの様子に気付き、笹山さんは申し訳なさそうに眉尻を下げる。
「すみません。疲れましたよね」
「いえ…そうじゃないんです」
「では気分でも…?」
「……なんか、恐くて」
「"恐い"?」
苦笑いで答えると、笹山さんは目を丸くして少し頭を傾げ、いかにも純粋に疑問を持った子供みたいで、オレはつい笑みを漏らす。
「この街で色んな事がありましたから。それに今の御崎さんの事もあるし……まぁ、それが一番の要因なんですけど」
この街に彼がいる。
すぐ会いに行ける距離だ。
それが尚更恐かった。
「あの……」
突然歩みを止めた笹山さんを振り返ると、さっきまでの豊かな表情は一変して、彼は真剣な顔付きでオレを見ていた。
「やっぱり社長に会ってもらえませんか?」
「…!?」
「実際、行ったところで意識があるかどうかは分かりません。でもあなたの声ならきっと届くと思うんです」
「…………だから恐いんだって」
「それは分かってるつもりです。あなたは、社長の今の状態を認めたくないんですよね?それに彼から会いに来るのを待ちたいという気持ちも理解できます。でももしこれが最期なら?」
「っ──」
「生きてる彼に会えるチャンスを逃したとしたら…。あなたはこの先、後悔しないと言い切れますか?これは社長の為でもあり、あなたの為にもなると思うんです」
彼の言ってる事はもっともだ。
大切な人が死ぬかもしれない危険な状態なら誰だって会いに行くに決まってる。
だけどオレは情けない程弱虫で、大切な人を支える所か悪い結果ばかりが頭に浮かんでくる。
それを飽くまで可能性の一つとしては考えられず、あたかもそうなると決めつけてしまってる。
そんなオレが会いに行っても、彼はきっと喜ばない。
病院のベッドに横たわる彼に取り乱し、きっと無様に泣きじゃくって彼を呆れさせる。
本当はオレだって会いたい。だけどもし彼が死んでしまったら?
永久に彼を失ったとして、それを目の当たりにしてしまったらオレはどうなる?
「三宅さん、お願いです。少しの時間でいいから、社長の傍にいてあげて下さい」
優柔不断な頭に追い討ちをかけた笹山さんの断固とした眼差しに飲まれ、結局オレは押し切られるまま静かに頷いた。
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