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Side有生、5
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(さっきから見られてるんですけど......)
イケメンさんとの会話が無くなって、変な沈黙があった。
一緒のお風呂に入っているだけで、幸せではあるけど、さっきまでの気さくな彼なら、もう少し会話もしてみたい。
それに、さっきからテレビの方ではなく、控えめに自惚れても、有生の方を見ているとしか思えない視線を感じるのだ。
(どうしてそんなに見るんだ......何!?)
背中を見られていると意識すると、身体全体が心臓になってしまったみたいにドキドキする。
あるいは、身体が緊張して震えているのかも。
「......少し話していい?」
そんなとき、後ろにいるイケメンさんが声を掛けてきた。
俺はスイッチが入ったみたいにビクッとした。
「は、はいっ、なんでしょう?」
有生はそのままの姿勢で返事をする。ほとんど棒読みだ。
後ろを振り返らず会話がしたいのは、顔を見てしまうと、上手く話せる自信がなかったからだ。
「ここにはいつも来るの?この時間に」
「あー...いえ、今日はたまたま、......勉強の気分転換に」
まさか「あなたに会いたくて来た」とは言えない。
「勉強って、学生?」
「はい...高校生です」
「そっか、どうりで...」
「......?」
(どうりで、何?)
有生は彼が黙ってしまったその先が気になったが、いつもの事からしたら「若く見える」とかそうゆう類を言いたかったのだろう。
「......あ、でも、ここへはよく来ます。弟と」
「弟さんとか...兄弟仲良くて、羨ましいな」
「イケメ...じゃなくて......あなたは兄弟はいますか?」
「ん、兄がいる」
「仲良くないんですか?」
「うーん......今は良くない」
彼の言葉に何か含みがあるように聞こえた。
それが気になって、ちらっと後ろを見る。すると、こっちを見ているイケメンさんと、モロに目が合ってしまい、有生は慌てた。
「......!」
すぐに前に視線を戻す。
顔が熱い。当然真っ赤になっているのだろうけど、見られている背中まで熱い。
(もう......あの顔は犯罪。見るの怖くなってきた)
「......ところで君、どうして背中を向けたままなの?」
「え、どうしてって...あ...テレビ、見てるから」
「...テレビねぇ」
(思いっきり信用してない言い方だ)
有生は胸のドキドキが止まらなかった。
顔を見られていないので、心を読まれることはないと思うけど、そこを突いてくるなんて。
これ以上詮索されたくないから、自分から話を切り替えることにした。
「あ、あの......俺も話していいですか?」
「はい、どーぞ」
「あなたの、名前が知りたいです」
「僕の?それは嬉しいな、興味湧いた?」
「......少し」
「少しか…僕は神都孝彰(かみつたかあき)」
「神都...さん」
(やったぞ俺、名前聞けた。陸にも教えてあげなくちゃ)
有生は心の中で、ガッツポーズをした。
「君は?」
「えっ、俺?......俺は斉木有生です」
「有生、か」
いきなり名前呼びされてしまった。
(今俺の事、有生、って...あぁ...心臓に悪い)
自分の名前なんて知りたくもないだろうと、あえて名乗らずにいたのに。
「......それで。いつに、なったらこっち向いてくれるのかな、待ってるんだけど、有生?」
「........っ!」
(ななな...なに、なんなの、この甘ったるい声)
突然、神都の声色が変わった。
それはさっきまでの爽やかな中音ボイスではなく、少し低めの何とも言えない声だった。
恋に奥手な有生には、それをなんて表現すればよいのか分からずに、ただ慌てた。
「あっ、すすっすみません、俺っ、もう帰らないと!」
背中を向けたまま、思い切り勢い良く立ち上がり、「さよならっ!」と言い捨てて、お風呂から上がった。
後ろで「有生?」と聞こえた気がしたが、1度も振り返ることは無かった。
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