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Side孝彰、3
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「有生、か…...」
昨日は楽しかったな。
反応が面白くて、つい調子に乗ったのは、良くなかった。
最後まで顔見せずに帰っちゃって。
だけど、彼の名前呼んだ時の反応...可愛いかったな。
だいたい赤面してる顔を手で覆って隠そうとしても、真っ赤な耳が丸見えだし。
(今日も来るかな...)
「ケアキさん、どうかしましたか?」
「え、何が?」
「顔、緩んでます」
「あ......」
咄嗟に手を顔にやる。
図星の時の典型的な反応をして、無表情なスタイリストの顔がほんの一瞬、フッと柔らかくなった。
スタイリストのカクさんは感情の起伏が少ない。いつも淡々とメイクをし、ヘアを整えてくれる。
この、感情を外に出さないところが、実は一緒に仕事をしていて心地よい。歳は孝彰の推定だが、25歳くらい。
ケアキはモデルの時の名前だ。
「K-AKI」と言う名前で仕事をしている。
「ちょっとね、いい事があったから」
「でしょうね、いつもならオフを仕事に変えられたら、怒りオーラをメイクで消すの大変ですから。でも今日は気持ち悪いくらい、ノリがいい」
「...言うね」
カクさんにここまでズケズケ言われても、不思議と怒りは出ない。それよりこの裏表の無い掛け合いが、仕事の合間の息抜きにもなっている。
「ユウ、ってのは人の名前ですか?」
「げっ、聞いてた?」
ピクっと眉毛が上がった。
「聞こえてきたんです......じっとして下さいね」
メイクをしてもらっている時は、どんなネタが来ても表情を変えずに対応できる孝彰の筈が、僅かに動揺し、カクさんの「じっと...」を久しぶりに聞くことになった。
「あ、そう」
「気をつけた方がいいです。緩んだ顔してると、社長に怒られますよ」
「ん、気をつける」
カクさんは本当の孝彰を知る数少ない人だ。
初めは社長と自分だけの取り決めだった。だけどもう1人味方が欲しいと頼んで、一番気を許せそうな彼にカミングアウトした。
そう、孝彰は仕事ではK-AKIを演じている。
「もうバレてるわ、あんたのボケた顔は」
鏡を通して後ろを見ると、社長で姉の、神都文香(ふみか)が腕を組んで立っていた。
いつもの孝彰ではダメだと、この文香に変えさせられた。
「うあ、出た」
「人をお化けみたいに......それより、何そのホワホワした顔、仕事の時に見せないで、って言ってるでしょ」
「人のオフ取り上げて言うことかね、なぁ、カクさん」
「僕に振らないで下さい」
そう、今日はまだオフだった。それをいきなり朝、文香の電話で呼び出され、仕事を入れられた。
(いつもなら怒るところだけど、今日は不思議とならないな)
「とにかく、この部屋から出る時は、K-AKIになるのよ」
「はいはい、カクさん?」
「OKです、出て下さい」
「OK、じゃ......行ってくる」
それが合図だ。
孝彰の顔が変わった。圧倒的なオーラで他人を寄せ付けない、
K-AKIになった瞬間だ。
カツカツと快活な靴音をたてて、部屋から出て行く。
「そうそう、その顔よ」
文香は満足気な顔で、後についた。
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