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Side有生、41
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「うわ、有生ちゃんすっごく緊張した顔してるー」
机の上に置いてあったパスポートを見つけた陸が、その写真を見て笑う。
「そりゃ緊張したよ、パスポートの写真自分で撮りに行くのは初めてだったし」
以前持っていたものは両親が準備した物で、更に昔すぎて期限もとっくに切れていた。
両親が海外に行っているので、今回は一から自分で申請したのだ。
「はぁぁー、あと一週間で有生ちゃんは海外か、やっぱ寂しいな‥‥なんかジワジワと実感沸いてきた」
「またそれを言う。お盆には帰って来るんだから」
夏休みまでもう少し。
部屋の床には開いたままのスーツケースが置いてあって、座るところが無いので、陸はベッドの上、有生は椅子に座って会話をしている。
荷物はほぼ埋まっていて、あとは行くばかりだ。
「そういえば、正くんはもう静かになった?有生ちゃんの海外行き、すんごく反対してたけど」
「あぁ、正嗣、昨日もウチに来て考え直せって言ってたな。大丈夫だ、って言ってるのに」
「孝くんも一緒だから安心していいのにね」
そう言って有生の顔を見る陸の目は、イタズラっ子に変化した。
「‥何が言いたい?」
そう言ったものの、有生の顔も真っ赤になっている。
「ふふん、春休みのイチャイチャっぷりときたら凄かったよね、孝くんって意外と子供っぽいとこがあるって言うか、心が狭いって言うか、あんな嫉妬魔人だと思わなかった」
「まぁ‥それは‥」
有生にも思い当たるところがあって肯く。
春休みはほぼ全て、孝彰のマンションにいた。陸が知っている事、陸に秘密にしている事、色々思い出すと恥ずかしくなる。
(確かに。春休みは全然離してくれなかった。僕もビックリした)
「あーその顔!今想像してるでしょ、あんな事やそんな事、もぉーやらしいなぁ」
「やらしいとか言うな」
「今度もめくるめく甘い日々が待ってるよ、有生ちゃん」
「陸!」
(全く、どうしてこう…やらしいセリフが次々と出てくる?)
だいぶ思い出さなくなったと言うのに、再び色々思い出してしまうじゃないか、と言いそうになって飲み込んだ。
(そんなことない、と言えない)
嬉しさと恥ずかしさが渦を巻いているところに、机の上の有生の携帯が鳴った。
「あ…」
孝彰だった。
「もしかして、もしかする?」
楽しそうにベッドから降りて、携帯の画面を見に来る陸。
「そうだよ、孝彰さんだから静かにしてて」
からかってくる陸に背を向けて、有生は受話器のマークをスライドした。
「…もしもし」
『有生?』
(孝彰さんの声…)
目を閉じてその声の余韻に浸る。彼から名前を呼んで貰うだけで、温かい気持ちになる。
『有生…聞こえてる?』
「あ、はははいっ、はいっ、聞こえてる」
「有生ちゃん、聞き惚れてまーす。顔真っ赤」
「り…陸っ、バラすなよ!」
『有生、スピーカーにして。俺も混ぜて』
「…え、あ…うん」
孝彰が言った事に、有生が応え、携帯を置いた。彼は弟の事も、とても大切にしてくれる。今のように傍に弟がいると、一緒に話そうとしてくれる。そうゆう所が大人だと思うし、尊敬するところではあるけど…
(僕の孝彰さんなのに、って言いたくなる僕はまだまだだな)
『陸、有生の顔そんなに赤いか?』
「孝クン!そう、ちょうど孝クンの事話してたんだよ、ラブラブっぷりが凄いねって。そしたら有生ちゃん、それ思い出して赤くなってるの」
陸は春頃から、それまで神津さんと言っていたのを、孝クンに変えた。孝彰が陸くん、と言っていたのを呼び捨てにするのと交換条件だった。その親しい呼び合いに、有生は複雑な気分だった。今まで人にそこまで関心を持った事もないので、こうゆう感情にどうしたらいいのか、分からないでいた。
『可愛いだろ?』
「うん、可愛いよ。俺の自慢のアニキだからね」
『俺の自慢の恋人だよ』
「2人とも変な掛け合いしなくていいから!孝彰さん、用件はなんだったの?」
『声が聞きたいだけじゃダメか?』
「は……?」
「うわー暑い暑い、夏だねぇ」
「…ぁ、あの…恥ずかしいから、用件ないなら…」
(こうゆうの、ホントだめ…心臓に悪いから)
「孝くん、有生ちゃん耳まで赤くなってる。頭から湯気出てそうだよ」
「そーか、じゃあこのくらいにするよ。日本を出るまでに仕事詰まってるから、出発の日まで会えないけど、また電話するよ。それから…悪い、有生と話したいから、陸はここまで。2人だけにしてくれるか?」
「オッケ、じゃあまたね!恋人の会話ごゆっくりー」
と言ってウインクをして、陸は部屋から出て行った。
(この2人ヤケに息が合ってる…なんで?)
『陸はいい子だな。…有生?』
「あ、うん、時々ビックリするくらいマセてるけど」
『有生は陸の前では、やっぱりお兄さんだな』
「…それは、そうだよ。自分がしっかりしなきゃ、って思うし」
『あーでも、耳まで赤くして感じてる有生、陸だけが見たんだと思うと、心穏やかじゃいられないな』
「孝彰さん、感じてないよ!顔が熱くなっただけ」
『そう?僕の声でイきそうになったのかと思って、凄く愛おしくなったよ。今すぐ抱きしめたい』
「孝彰さん…」
『…てっ』
電話を通して甘い空気になりかけたと思った時、孝彰が変な声を出した。
「……?」
『…こら、1週間したらどれだけでもイチャコラできるんだから、今は仕事する!』
向こうから聞こえて来たのは姉で社長の文子の声だった。
(お姉さんもいたんだ!?)
『…はいはい。有生ごめん、また電話するよ』
「…うん、仕事頑張って。ぁ…文子さんにもよろしくって」
『…それはダメ、調子に乗るから。有生、好きだよ』
孝彰は当たり前のように、最後にそれを付け加える。
いつもそれで幸せな気分になって、また頑張れるのを思い出した。
「僕も好き、孝彰さん」
そう返して、有生は慌てて電話を切った。
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