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Side有生、42
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出発の日がきた。
孝彰とフランスに行く。
有生は不思議と落ち着いていた。
空港へは正嗣と陸が見送りに来るらしい。
孝彰が手配したハイヤーが家の前に着き、中から本人が降りてきた。
「孝彰さん、おはよう」
玄関で待っていた有生は、外に出て声を掛けた。
「おはよう、有生」
孝彰はニッコリと微笑んで目の前に立った。久しぶりの彼は相変わらず背が高くて、有生は空を見上げるみたいに彼を見る。
(孝彰さんのカッコ良さはいつまで経っても見慣れないな)
人を惹き付ける魅力に、会う度にドキドキして、心臓の辺りがギュっと締め付けられる。
「久しぶりの有生だからもっと見ていたいけど、佐渡さんは中にいる?挨拶してくるよ」
そう言って、中へ入って行った。
すっかり2人のやりとりにも慣れた正嗣は、無反応でスーツケースをトランクに入れている。
しばらくして家の中から陸が出てきた。孝彰も、祖母を連れて出てくる。
「じゃあ、佐渡さん、有生さんを責任持ってお預かりします」
「あたしは全然心配してないよ、有ちゃん、楽しんでおいで」
「うん、陸をよろしく。夏休みだけどお弁当作らなきゃならないから」
陸はこの春、高校生になり、お弁当デビューをした。部活も精力的に出ていて、夏休みに入ったけどお盆以外は休日が無いらしい。
「じゃあ、そろそろ出ようか」
陸の声掛けで、祖母以外の全員が車に乗り、空港へ向かう。
3列シートの一番後ろに正嗣と陸、真ん中は有生と孝彰が乗っている。
「あーいよいよだね、寂し…あ、正ちゃん神の杜一緒に行こうよ」
「俺は家が遠いんだよ、帰るまでに湯冷めするからダメだ」
「いーじゃん、週末はウチで泊まれば」
「……お前なぁ」
陸と正嗣の掛け合いを聞きながら、有生は車窓を見ていると、自分の手に温かい肌が触れた。ハッとして下を見ると、孝彰の綺麗な手が被さっている。ドキッとして彼を見あげると、有生の方を見て微笑む孝彰がいた。
「夜はよく眠れた?」
と話しかけてくる。
「うーん、結構。また孝彰さんと一緒にいられるんだ、って思ったら嬉しくて興奮してたんだけど、最後だからって陸と銭湯行ったのが良かったみたい。ベッド入ったらアレコレ考える前に寝ちゃった」
「そうか」
「孝彰さんは?」
「僕は明日からこの隣りに有生がいるって思ったら、嬉しくて寝られなかったよ」
「あ……もぅ、バカ」
近い距離で見つめながら言われると、ベッドにいる2人とシンクロしてしまい、有生は恥ずかしそうに車窓に目を戻した。
(あーもう、バカは自分、いちいちドキドキする!)
触れ合っいる孝彰の指が、有生の指に絡めてきている。
(今絶対いやらしい顔してこっち見てる、イジワルモードの孝彰さんだ)
手をピクピクとさせながら外を見ていると、飛行機が見えてきた。空港はすぐそこらしい。
(海外か…久しぶりなんだよな)
有生は飛行場を眺めながら、過去の記憶に思いを飛ばす。もうあまり憶えていない小さい時の自分。
(……ぇ)
何故だか心がザワついた。もし記憶に蓋があるとするなら、開けてはダメだと言うような、声じゃない何かが聞こえる気がする。
(…なんだろう、この感じ)
初めての感覚に、口に手を充てて考える。
「…おい、大丈夫か?」
その時後ろから肩を叩かれ、正嗣が声を掛けてきた。
「…え、う…うん、大丈夫」
「有生?どうかした?」
正嗣の突然の真剣な言葉に、孝彰と陸も有生を見た。
「大丈夫だよ、ちょっと緊張してきたのかも」
「有生、今ならまだ止められるぞ、行かない方が…」
と言う正嗣。
「はぁ?正ちゃん、何言い出すかと思ったら、まだ諦めてなかったの!?」
今度は陸が隣でビックリして言う。
「いい加減あきらめようよ、飛行場はすぐそこだよ」
「俺は有生を心配して言ってるんだ」
また2人の言い合いが始まり、有生は、ちょっと可笑しくなった。
「…有生、本当に大丈夫?」
「ん、平気」
そうは言ったけれど、実のところ有生自身、さっきのザワつきが何なのか分からない。だから大丈夫かそうでないかも分からなかった。
空港に着いてチェックインを済ませると、時間までゆっくりしようと、4人はカフェに入った。
「さっきの有生ちゃん、ホントに何だったの?」
「…うん、よく分からないんだけど、少し胸がザワザワしたんたよね、でも今は何ともないよ」
「そっか……って、正くん顔怖いよ、どうしたの?」
「俺は有生が心配なだけだ」
「ありがとう正嗣、けど大丈夫だと思う」
「そうだよ、孝くんもいるし。ね?」
「あぁ、さっきは隣で様子に気が付かなかったけど、注意してるよ」
「……はい」
そう返事した声は渋々引き下がるとゆう感じだった。
「それにしても、さすが空港だね。孝くんが悪目立ちしてないよ」
「ここはいろんな人がいるからね。それに今はオーラ消してるし」
「凄い!さすがプロだね」
陸が意識してかは分からないけれど、上手いこと話題を変えてくれた。それでしばらくは陸の高校生活の話でも盛り上がり、孝彰が腕時計をチラッと見たタイミングで席を立ち早目に保安検査場へ向かった。
(…まただ、ザワザワする感覚)
歩きながら、有生はこの落ち着かない感情が再び出ている事に気がついた。でも顔に出すのは良くない。正嗣がまた行くのを辞めろと言い出すので、歩きながらさりげなく彼からは見えないところに移った。
「…じゃあ、並ぼうか」
「ん、分かった」
「向こうに着いたら連絡してね」
「OK。正嗣、陸の事頼む。うちに泊まるのも遠慮しなくていいからな」
「…あぁ、こっちの事はいいから。それより、何かあったらすぐに連絡しろよ、俺もちょくちょく連絡するけど…神都さん、有生の事、本当によろしくお願いします。いつも気にかけてやって下さい」
「勿論だよ」
と正嗣に言うと、有生の方を見た。
「有生と離れたくないから連れていくんだ、それに向こうの友人も会いたがっている。離してくれなさそうで、嫉妬と戦うのが目に見えてるよ」
「……」
こうゆう時、なんて返せばいいのか分からない有生は、赤くなって下を向いた。
2人と離れた有生たちは、保安検査場から出国審査を通って、搭乗口のところまで来るとベンチに座った。
腰掛ける時、自分たちが乗るであろう飛行機をが目に入った。
見た瞬間、有生の心臓が跳ねる。
(…ぁ、だめだ…目が回りそう)
さっきよりも動悸が激しい。
それに地面が波打っている。
隣では孝彰が話しかけているけれど、生返事だった。
さすがに何を聞いても同じ返事しか返さないでいると、孝彰も気がついた。
「…緊張してきた?」
「…ん…」
その声を聞いて、孝彰は有生の手を握った。
「…大丈夫?有生、こっち見て」
有生の返事に違和感を感じ、孝彰は少し強い口調で名前を呼んだ。
「…孝彰さ…っ…僕…どうしたのかな…ここが…」
と、胸を押さえながら言う有生の目から涙が溢れ出た。
(言いたくない、絶対に…言いたくないのに…身体が言う事きいてくれない···無理かもって)
「どうした?気分悪い?」
孝彰は何がおこってるか分からないといった表情で、有生を見ている。
搭乗口の係員が搭乗開始のアナウンスを告げた。
「…孝彰さん……動けない…行けない……っ…は…」
(孝彰さん…孝彰さん…どうしよう)
息が吸えない気がして、口を開けて空気を入れようとする。
「有生、落ち着けるか?あんまり空気を入れちゃダメだ」
その声は有生には届かなかった。
有生の意識が無くなり、その場で倒れ込んだ。
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