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幼い頃の夏の日2
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「公ちゃん?」
その日は、生暖かい風が吹く日だった。
吸血鬼の寝蔵に入った俺達の前で吸血鬼が、【別の吸血鬼】に抱かれるような体勢で死んでいた。密閉された空間に、むせかえるような濃い血の臭いが充満していた。
いきなりの展開に思考が追い付かない。何があった?そう、たしか吸血鬼を追い詰めて戦っていた時に、隙をついた吸血鬼が寛ちゃんに襲い掛かったのだ。
そして、唐突に現れたアイツが吸血鬼の首に噛み付いた。
「伊達」
無意識にソイツの名前を呼んだ。そう、俺達の目の前で恍惚の顔をして血を啜る男は伊達だった。寛ちゃんが伊達に駆け寄ろうとして、肩を掴んで止めた。
おい、伊達?何してやがる?
お前、学校で散々俺達を馬鹿にしていたよな?
吸血鬼なんていないと笑っていたよな?
なのにお前は何だ?
血を啜るお前は何なんだ!
気持ち悪い……、嫌悪感しかなかった。
怒りが体の中を駆け巡り、杭を持つ手に力がこもった。だが、オッサンに止められて伊達を殺せなかった。何故だ!何故なんだ!クソックソックソッ!お前なら、お前ならできたんだろ?皆を助ける事ができたのに何でしなかった!この役立たず!
「この人殺し」
俺は伊達を罵った。目の前で黙って俯いている奴を見下ろし、心の中で暗い炎が灯るのを感じながら、思い付く限りの罵りを吐いた。正直言って頭に血が登って何を言ったか、詳しく覚えていない。だが、この台詞だけは、その時の気温や夕焼けの色、虫達の鳴き声等を鮮明に覚えている。
だがしかし、伊達の顔は覚えていない。何故ならばアイツはずっと俯いていたからだ。
あの時ずっと俯いていた伊達は、一体どんな顔をして、どんな気持ちでいたのだろうか?いつもどうり逆ギレ?いつもみたいに不満を隠さずにいた?それとも?
今となっては分からない。
そのすぐ後、伊達はオッサンに連れ去られて行った。何処に行くと尋ねたら、オッサンは教えてくれなかった。冷静になって、伊達を許してやれと言うオッサンに、俺は膓(はらわた)が煮えくり返るのが分かった。
伊達はクズだ。
知り合いが死んでいく中、救う力があるのに何も動かず、何も言わず、俺達を嘲笑っていただけ。そして最後になって、俺から復讐をする権利も奪った。
力が有るのに何もせず知らぬ顔をしたアイツは、最低のクズ野郎だ。何故だ?何故なんだ!クズのアイツに力が有るのに、何故俺には力がない?アイツが遊んでいる間に戦っていた俺には、何故力がない?
悔しかった。
だから俺は、事後処理に来た退魔師達に話し掛けた。「退魔師になりたい」と。
その後揉めに揉めたが、俺と寛ちゃんの二人が退魔師組合に入る事になった。他の奴らも最初は入ると言っていたんだが、親類縁者と決別する事が分かったら言葉を翻した。仕方ない、友人達には家族がいる。
「良いのか寛ちゃん?」
俺には爺さんしかいないし、爺さんとは話がついているから良いが、寛ちゃんには家族がいる。組合に向かう途中で尋ねたら、寛ちゃんは笑って見つめ返した。
「うん。オイラも退魔師になりたいし、それに公ちゃんを見つけてあげたいから」
親友の仇を討ちたいから退魔師になりたいのは分かるが、もう一つの理由が理解出来ない。何故、あのクズを寛ちゃんは許す事が出来る?たった半年だけ居た俺とは違い、寛ちゃんは化け物に長い間騙されていて、尚且つアイツが原因で沢山の人が死んだんだぞ?なのに何でアイツを気遣うのか分からなかった。
当時、偽善だと言った事を今でも覚えている。そんな俺を寛ちゃんは悲しそうな瞳で見ていた。
それから俺達は、がむしゃらに修行した。
一年目はオッサンに稽古をつけられ、それから組合の経営する学園に入った。オッサンの稽古は無茶苦茶で、霊感を覚醒させる手っ取り早い方法は死にかけることだと言い、本気で死にかける事をやらされた。学園に入ってからは、運が悪いのか、やたら滅多らトラブルに巻き込まれた。それが高じたのか、十八の頃には史上最年少で退魔師試験を受ける事が出来ることになった。
そして、その試験で俺は一人の女を殺してしまった。
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