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俺とアイツ1
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小振りな口が背一杯開き、目の前の肉にかぶり付く。小さな口に反して鋭い牙が肉に刺さり、それを味わった公彦は満足げに微笑んだ。
公彦が俺の部屋に来るようになったのは、あの騒ぎの直後からだった。
あの日の次の日、寛ちゃんが重箱を持って来た。数年ぶりに殴りあいを行った為、寛ちゃんも俺も傷だらけになっていた。痛む顎を撫でながら寛ちゃんから渡された重箱の中を見てみると、俺らみたいな現場職にはとんと縁のない、豪華な料理が詰められていた。
「公ちゃんから、お詫びだって」
「いらない。寛ちゃんが食べなよ」
俺は寛ちゃんに重箱を突き返した。重箱を持った寛ちゃんは、キョトンとした顔で俺を見る。
「え、何で?いつも吉ちゃん、ジャンクフードばかりじゃん。体にも良さそうだし食べなよ」
「俺が、他人越しに渡された物を食べないって知ってるだろ?」
俺の立場は他人には魅力的で妬ましいらしく、差し入れに妖しい薬品を入れられた事が沢山あった。ソイツらから差し入れを貰わなくなると、人を雇ったり騙したりして他人を使って妖しい物を贈ってくるようになった。一度それで痛い目にあってから、俺は贈り物は知り合いからしか貰わず、なおかつ直接手渡しでないと受け取らないようにしている。
「でも、オイラだし、相手は公ちゃんだよ?」
「例外はないよ」
「えー?酷いよ、吉ちゃん。そんなこと言うなら、オイラが全部食べちゃうからね!」
寛ちゃんは、捨て台詞を残して立ち去っていった。そして次の日、別の来訪者が訪れていた。
「うおおおおん!ジュリアちゃん!ジュリアちゃん!」
「うっせーな」
次の日、俺の目の前ではキャバ嬢に振られた負け犬が泣きわめいていた。ソイツは俺と同じ様にオッサンに鍛えられた退魔師で、いわゆる兄弟子という奴だ。何故か女運、いや、メス運が悪くて毎回泣いている。昔から、人種種族に関係なく、雌に嫌われてトラブルに巻き込まれる人だ。
俺の部屋のソファーに座って酒瓶を抱えている兄弟子を見て、溜め息を吐きながら向かいのソファーに座り、目の前の座卓に本日の夕飯を置く。某有名ハンバーガーshopのハンバーガーを三つに、ビッグサイズのポテトを一つ、他にも新作デザート各種に野菜ジュースが本日の夕飯だ。
「うげ、相変わらずジャンク好きだな。見るだけで胸焼けするぜ」
「俺の好みです。文句言われる謂れは有りません。元気なら早く帰って下さい」
「ヤダ!ワタチ吉正と一緒にいる!」
駄々をこねるように酒瓶を抱き締める兄弟子に、眉間がピクピクと痙攣するのが分かる。二メートル近い筋肉だるまに、そんな事をされても気色が悪いだけだ。メシを食べながら、どうしてやろうかと考えていると扉がノックされた。
「吉正ー、お客さんだぞー」
「はいはい」
酔っぱらいをあしらいながら立ち上がり、扉を開ける。すると、そこには……。
「夜分に申し訳有りません、川蝉様」
扉の外には、風呂敷を手にした伊達がいた。上目使いで俺を見上げた伊達は、直ぐに視線を斜め下に反らして言葉を続けた。
「どうした?」
伊達は俺の事を異様に怖がっている。それが俺が与えたトラウマによるものか、ただ単に俺が怖いだけかは分からない。むやみやたらに脅かすつもりはない為、出来る限り優しい口調で話そうとするが、伊達からは怯えた雰囲気がする。
立ち振舞いや性格も変わった伊達だが、その様子は昔を思い起こす。昔の伊達は、俺を罵った後、俺に反論されて泣きそうな顔で俯いていた。その姿と被る。
「先日は、誠に申し訳ございませんでした。直接お伺いしなければなりませんのに、人伝にしてしまい。あ、あの、お詫びの品です。ご迷惑でしょうが、受け取って頂けませんでしょうか?」
「吉正ぁぁぁ!酒が足りにゃいずぉぉぉぉ!何やってんだぁぁ!しょくむたいまんだぁぁぁ!」
「し、失礼いたしました。お客様がいらっしゃったのですね。直ぐに、お暇致します」
「……いや、いい。少し待ってろ」
「よぉしぃ!俺様が今から素敵なストリップしょーをしてやる。だから、お酒持ってきてぇぇん」
立ち去ろうとする伊達を呼び止め、俺は扉を閉めると部屋の中に戻った。中には案の定、服を脱いでポーズを決めている兄弟子がいた。拳を握りしめながら兄弟子に近寄る。吐き気がする。
「ん?どうした吉正?あれぇ?何で俺を抱き上げるんだ?ちょっ!?待て待て待て!此処、最上階!死ぬ!俺でも死ぬ!」
「式神を使えば助かるでしょ。帰ってきたら殺しますから」
「ギャアアアア!」
バルコニーから落とし、兄弟子が地面に還った事を確認すると、俺は再び玄関を開く。そこには相変わらず伊達が居たが、何故か更に怯えていた。
「どうした?」
「今凄まじい悲鳴が……」
「気にするな。此処ではよくある事だ」
「そ、そうですか」
遠くで怨めしそうな呻き声が聞こえるが、いつもの事だ。振り向いて確認するが戻ってこないから問題ない。視線を戻して公彦を見つめると、重箱を両手で持って不安そうに見返してきた。
なんとなくだった。なんとなく、言ってしまった。
「おい、入るか?」
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