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始まり(2)浅野Side
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ーガタン、ゴトンー
終電に揺られながら、呆然と考えていた。
見てはいけない物、聞いてはいけない事をたとえ偶然だとしても、知ってしまった罪悪感…
だけど、篠原がゲイだと知っても、嫌悪感や、差別的な感情は微塵もない。
元々、性や恋愛に関して開放的な家だったからかもしれない。
お袋の仕事は水商売だし、親父だって滅多に会う事も無かったけど、きっと本妻とお袋以外にも愛人がいるだろうなと、思春期を迎えた頃には分かってた。
だから、恋愛には人それぞれの形があって、それがどんな形であっても、他人がとやかく言える物じゃないと思ってる。
だったら何で‘あんな事,を思ってしまったんだろう。
俺にすればいいのに、なんて…
変だ。
「……」
これ以上考え過ぎてはいけない気がして、とりあえず、何も無かった振りをして、いつも通りに過ごそうと言い聞かせた。
この時の俺は、時間が経てばきっと、今まで通りの自分に戻れるだろうと、軽く考えていた…
「おはようございまーす」
妙にテンションの高い挨拶がオフィスの入り口から聞こえて来て、思わず振り向いた。
昨日の今日で落ち込んでるかと思ったら、元気そうだな…
「おはよう」
目の前のデスクに座る篠原にそう声を掛けると
「おう、おはよう」
顔を上げ、ニコリと微笑まれた。
いや…元気そうだと思ったのは撤回だ。
良く見たら目が腫れてる。
空元気以外の何ものでもない笑顔と赤い目のアンバランスな感じが、痛々しく感じるのは、俺が昨日の出来事を知っているからだろう。
「何か目腫れてるけど、どうした?」
そう聞いたら篠原はどう返すだろうか?知りたくなって、少し意地悪な事を聞いてしまった。
「…別に、何もないけど。昨日夜中までDVD観て、泣いたからかな」
嘘つけ。
「へー何の映画?」
「え…と、ド○えもん」
「ぷ…」
絶妙なタイトルチョイスに、思わず笑ってしまった。
「なんだよ、文句あるか」
言い訳にしても、そのチョイスを笑われたのが気に食わなかったのか、篠原は真っ赤な顔でそう言った。
「いやーいい映画だと思うぞ。そりゃあ泣いても仕方ないな」
「だろ」
篠原は短くそれだけ言うと、いつも通りにパソコンへと向かった。
それから1日の篠原は、部長から仕事のポカミスを注意されて凹んだりしてたけど、表面ではいつも通りだった。
俺はと言うと、篠原の姿が目の前でチラつく度、昨日のあのシーンが何度もフラッシュバックして…
あの男とは、どこで知り合って、どのぐらい付き合ってたんだ?
とか
やっぱりヤる事はヤッてんだろうな。
パッと見あの体格差的に、篠原の方が女役か?
とか
今でも、好きなのか?
何て事を考えてしまっている自分に気付いて驚いた。
挙句の果てに…
「篠原、この後飲みに行かないか?」
勤務上がりのエレベーターの中で、一緒になった篠原に、そんな事を口走ってしまった。
「え…いや、今日は止めとく」
「そか、分かった」
何やってんだ俺は…
篠原を飲みに誘って、元気づかせようとでも思ったのか?相談にも乗れないのに。
「女の子でも誘えば?浅野なら直ぐ飛んでくるコぐらいいるだろ」
「だな。そうする」
モテ男キャラを勝手に定着されてしまい、篠原の期待通りにそう言うと、
「うわー何かムカつく」
篠原はそう言って鞄で俺の太腿を小突くと、エレベーターが開いた瞬間、早歩きで逃げる様に飛び出した。
「痛っ…お前が俺をモテ男キャラに仕立て上げるからだろ」
「お前、謙遜って言葉知らないだろ」
「お前に謙遜してどうすんだよ」
篠原とのこういう馬鹿らしいというか、学生みたいなノリのやり取りは嫌いじゃない。
学生時代に出会ってたら、きっと毎日ツルんでただろう。
同期入社で、同じ歳。
同僚だし、友達とはいかないかもしれないけど、もっとプライベートでも遊べたらな、とは前から思ってた。
だけど、篠原にはどこか壁を作られてる気がしてた。二人だけで飯いったりもした事ないし、今だって、飲みの誘いを断られた…
あれ?もしかして俺、嫌われてる?
「じゃあな、お疲れーあんまり飲みすぎんなよ」
「あぁ、お疲れ」
そう言って小さく手を上げると、篠原の背中を見送った。
「はぁ…」
参ったな…
あんなに言い聞かせたのに、いつも通りじゃないのは俺の方じゃないか。
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