アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
始まり(5)浅野Side
-
まだあの一週間からひと月も経っていないのに、随分前の事の様に感じる。
俺は自分の篠原に対する思いを確かめる為に、そして篠原は俺を諦める為に、あの一週間を過ごした。
そう言えば、付き合う様になってから、篠原と、こんなやり取りがあった。
「あの時俺を毎晩抱きしめてたのって、最初から企んでたのか?」
「あぁ、どんな反応するかな〜と思って計画した」
「ヒデぇ」
篠原は、自分が最初から嵌められていた事を知って口を尖らせて拗ねていた。
……実は、篠原に秘密にしている事がある。
始めから計画してた…と、言ったけど、それはウソだ。
最初の夜だけ、本当は…
ーギシッー
「ん…?」
俺が、ベッドへ上がると、寝ぼけ眼を擦りながら、篠原が俺を見上げた。
「あ…悪い、起こしたか?」
「浅野…何?」
「何って、寝るんだよここで」
俺のベッドだし。布団は一つしか無いし…何てのは自分への言い訳で、一緒のベッドで眠ったら自分の篠原への気持ちに、どんな事が起こるのか興味が湧いた、という単なる思いつきだった。
「まさか、一緒のベッドで寝るのか⁉︎」
「あぁ。何か問題あるか?」
篠原が慌てて飛び起きた変わりに、俺はベッドに横になってアッサリそう言った。
「…じゃあ俺ソファーで寝るわ…」
ーグイッー
俺は、ベッドから抜け出そうとした篠原のパジャマの裾を掴んだ。
「何の為のキングサイズだと思ってるんだ?男二人でも余裕で眠れるだろ」
悪いな篠原。俺は一度言い出したら止められない。俺の我儘に、付き合ってくれ。
「そりゃそうだけど…」
そんなに嫌がるのには、何か理由があるのか?
俺としては、学生の頃の友達との雑魚寝と同じ感覚だったんだけどな…やっぱり、男同士で同じベッドを共有するのは、違和感があっただろうか?
「分かったよ…おやすみ」
篠原はしぶしぶベッドの中に戻ると俺に背を向けそう言った。
「あぁ、おやすみ…」
俺も、篠原の背中に向かってそう言った。
ベッドの端で、縮こまった篠原の背中が、俺を拒絶している様で、胸がチクリとした。
ーギシッー
ん?
ベッドに入って15分ぐらい経った頃、眠っていたらベッドが揺れた気がして、薄目を開けた。
暗闇で、すぐには分からなかったが、俺に背を向けたままだった筈の篠原が俺の方を向いていた。
慌てて目を閉じて、寝息を立てるフリをしていると、篠原の顔が更に近付いた気がして、再び薄目を開けてみると…
篠原が俺の顔を覗き込んでいた。
会社では、目が合うとすぐに俺から目を逸らす篠原が、俺の顔を逸らさずに見つめている。
なぜだ?さっきまで、俺を拒絶してたんじゃないのか?
…嬉しい。
こんな行動を取る篠原が凄く…
可愛い。
ーグイッ‼︎ー
俺は思わず、篠原の肩を抱き寄せていた。
「っ……‼︎」
腕の中の篠原の肩がビクリと跳ねて、我に返る。
俺は、何て事をしてしまったんだ…
男で、同僚の篠原を抱きしめてしまうなんて。しかも、その理由が、可愛さ余っての事だなんて、自分を見失ってるとしか思えない。
「あ…浅野…?」
この状況をどうするべきか考えていると、篠原が俺の名前を呼んだ。
だめだ。言い訳なんて思いつかない。
「…すぅ…すぅ…」
取り敢えず、寝たふりを続行するしかなくて、俺は寝息を立てた。
頼むから起きてる事に気付かないでくれ。
俺は寝てる。俺は寝ているんだ…
あ…そうだ。
寝ているうちに、夢を見て、無意識のうちに、女と間違えて抱き締めてしまったんだと思わせればいいじゃないか。
ふと、フワリと柔らかい髪の毛が俺の顎下を掠めた。
「…ん…」
ああ、この感触は…
アイツに似てる…
「…香織…」
咄嗟に呟いた名前は、お袋が可愛がってる猫の名前。
考えてみると、よく似ている。
俺にあまり懐かず、嫌ってるんだと思っていたら気まぐれに、俺の側に寄り添って来る所とか。
堪らなく可愛いんだよな。
「……」
篠原は無言で、固まっているようだった。
ほら、呆れただろう。女と間違えてお前を抱きしめた俺を笑って、早く俺の腕を払って、抜け出してくれ。
早く…
ーーっ!
篠原は、抜け出すどころか、俺の胸元に顔を埋めた。
サラサラとした髪が俺の首筋をくすぐる。
ドキドキと高鳴る鼓動に気付かれない様、ゆっくりと息を吸い込むと、俺と同じシャンプーの匂いが鼻に流れ込んで来て…
不覚にも恋人同士の様だと思った。
男の体なんて、硬くて、抱き心地は最悪だとばかり思っていたが、俺より10センチ程低い身長に、線の細い篠原の体は、俺の腕の中に程よく収まり、まるで欠けたパズルのピースがはまったみたいに、心地良かった。
篠原はなぜ俺の腕の中から抜け出さないのか?疑問は尽きなかったが、きっと、篠原も俺と同じ様に、心地よさを感じたから、だったら良いなと思いながら今は只、このまま篠原の体温を感じながら、眠りにつきたかった。
こんな風に、ただ抱き合っていたいと思ったのは初めてだった。
次の日の朝。
目覚めるといつの間にか腕は解けていたが、篠原は俺の側に寄り添って、幸せそうに眠っていた。
昨日は観察されっ放しだった顔を、今度は俺が、観察する。
色白いよなコイツ…肌もツルツルだし。ヒゲとかも、あんまり生えてないし。
普段素直じゃなくて、憎まれ口はしょっちゅうだけど、寝てると本当に…
その頬に触れてみたくて、伸ばした手のひらをギュッと握り、引っ込めた。
ダメだ…もう言い訳は出来ない。
俺は篠原を…
ただの同僚としてでは無く、恋愛対象として見ている。
じゃなきゃ、頬に触れたいなんて思わない。
「……」
俺は、篠原を起こさない様に、ベッドから抜け出した。
どうすりゃいいんだ。
わしゃわしゃと頭を掻いて、大きなため息をついた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
12 / 37