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悩み襲来(6)
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「はぁ…」
結局、診察の結果インフルエンザは陰性。ただの風邪だった。
家に帰って来て、処方された薬を飲んで、大人しくベッドに潜り込もうとした瞬間…
-ブブブ-
テーブルの上の携帯が震え出した。
そう言えば後で電話するって言ってたっけ…
俺は、浅野とのメールのやり取りを思い出し携帯のディスプレイを確認した。
「あれ?…千尋か」
電話の主は浅野ではなく、妹の千尋だった。
「もしもし、どうした?」
『あ、お兄ちゃん?明日、お昼頃そっちに着くから家に居てね』
「あ…ああ、そうか明日だったよな」
『あれ?何、お兄ちゃん声ガラガラじゃん。風邪?』
「うん。だからさ、お前来てもあんまり構えないし、風邪移したら悪いから、兄ちゃんホテル代出してやるけど、どうする?」
『えー別に構って貰おうと思って行く訳じゃないし、今からホテル予約するの大変だからいいや、お兄ちゃんチで。どうせ看病してくれる彼女も居ないんでしょ?』
「余計なお世話だ」
彼女は居ないけど、彼氏なら居るぞ。
『あ、やっぱり居ないんだ。そんな寂しいお兄ちゃんに、お粥ぐらいなら作ってやらなくもないよ』
「ははは、味は期待しないで楽しみにしとく」
『ひどーい!私結構料理上手いんだよ』
「はいはい」
『もう…じゃあ明日ね!お大事に』
「あぁ。気を付けて来いよ」
-プープープー…-
まったく…相変わらず一言多い妹だ。
携帯をポイと枕元に置いて布団を被った瞬間、再び携帯が震えた。
今度は浅野からだった。
そのまま布団に入ったまま通話ボタンを押した。
「もしもし」
『体大丈夫か?病院どうだった?』
「うん。インフルじゃなかったよ。ただの風邪だから、薬飲んで2、3日安静にしてたら治ると思う」
『良かった。やっぱりさ…昨日の‘アレ,のせいだよな?悪い』
「違う…とは言えないけど、謝るなよ。俺だって…その…嫌だった訳じゃないし、お互い様だから」
『じゃあさ、お詫びだけさせてくれよ』
「お詫び?」
『うん、お詫び。じゃあ、暖かくしてゆっくり休めよ。何かあったらすぐ連絡しろよー』
「え…うん。分かったじゃあ、お疲れ様」
-プープープー…-
‘何かあったらすぐ連絡しろ,か…
そんな存在がいる事が嬉しい。
離れてても、その存在があるだけで、安心する。
風邪で具合が悪いはずなのに、思いのほか穏やかな気持ちで、俺はそのままゆっくりと瞼を閉じた…
浅野の為にも、来週末までには完治させて一緒にスーツ見に行く約束を果たさないとな…
-次の日-
-ピピピッ-
「37度6分か…」
ちょっとだけ落ち着いたけど、普段からあまり体温が高くない俺にとっては、まだ微熱とは言えない体温だ。
「ケホケホ…う゛ー」
喉もまだ赤い。
お昼前、とりあえず何か食べて薬を飲まないと、治るもんも治らないよな…そう思い、モソモソとベッドから這い出して、キッチンへと向かう。
冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出し、喉を潤していると…
-ピンポーン-
インターホンが鳴った。
千尋かな?予定より早かったな…そう思いながら、玄関へ向かいドアを開けた。
「はい」
-ガチャ-
「よっ、お詫びに来たぞ」
え…?
「あ…浅野⁉︎何で?」
ドアを開けた先に待っていたのは、千尋ではなく浅野だった。
水を飲んで引いた汗が、再びドッと溢れ出す。
「何でって…お詫びに一日つきっきりで看病しに来たんだよ。どうせ週末の予定ってのも、風邪でキャンセルになったんだろ?って事で入っていいか?」
浅野はそう言うと、俺の返事を待たずに、部屋に上がり込んだ。
呆然とする俺に、浅野は抱えているビニール袋の中をテーブルに出し始めた。
「冷えピタに、ポカリだろ、リンゴと、グレープフルーツ…とりあえず、定番の風邪グッズ用意して来たけど、他に欲しい物あったら何でも言えよ」
浅野は満面の笑みで、俺にそう言った。
どうしよう。
俺を看病しに来てくれた事は嬉しい…嬉しいんだけど、このまま居られたら千尋が来てしまう。
どうにかしないと…
「あ…浅野。気持ちは嬉しいんだけど俺、浅野に風邪移したくないんだ…だから、その…俺は平気だから、帰っていいよ」
俺の反応が想像していた物と違ったのか、浅野は一瞬ポカンとした顔をした後、呆れた様に笑った。
「お前、何彼氏に遠慮してんだよ。移るとか、そんな事、百も承知で来てるっての」
「でも…」
浅野は俺の頭をポンポンと撫でると、
「ほら、病人はさっさとベッドに入って大人しくする」
そう言って、俺の肩を掴んでクルリとベッドへと向かわせた。
なかば強引にベッドに寝かされた俺のおでこを浅野の手のひらが撫でる。
「やっぱ熱いな。冷えピタ貼るか」
浅野がそう言って立ち上がり、リビングに行った隙に、俺は携帯を手に取った。
千尋に、夕方頃来るように連絡して、時間稼ぎをしてる間、どうにかして浅野に帰って貰えるようにしようと考えたのだ。
『ごめん千尋。俺、用事出来たから、やっぱり夕方頃に家に来てくれ』
そう、メールを打ちかけたその時…
-ピンポーン-
玄関から、インターホンが鳴った。
まずい…非常にまずい…
「あれ?誰だろうな?」
リビングから浅野のそんな声が聞こえて、俺は慌ててベッドから飛び起き、リビングへと顔を出した。
「いいよ。俺が出るから」
すでに浅野は玄関へ向かっていて、ドアの前から振り向いてそう言った。
「いや、浅野待っ…」
-ガチャ-
「ごめんお兄ちゃん、ちょっと早く着い…え?」
「…ん?」
玄関先で、二人の困惑した声がした後、二人の視線が同時に俺に注がれた。
「「 どちらさま? 」」
ああ…
誰か夢だと言ってくれ。
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