アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
悩み襲来(7)
-
「あ…あの…同僚の浅野と、妹の千尋…です」
俺は、妹に向かって、浅野を手で示した後、浅野には妹を示しながら何故か敬語でそう言った。
嫌な汗が頬を伝う。
様子を窺うと、二人は少し見つめ合って、ペコリと小さくお辞儀をした。
「はじめまして、お兄さんの同僚の浅野です」
「は…初めまして妹の千尋です。兄が、いつもお世話になってます!」
浅野が、イケメンスマイルで名乗ると、千尋はキラキラと目を輝かせながら、そう言った。漫画の世界の様に、目がハートになっているのが、分かる。
我が妹ながら、相変わらずのイケメン好きはアッパレだ。
「ちょっとお兄ちゃん…こっち来て」
「ん?」
ふと、千尋は手招くと、俺の肩に手を回し、一緒に浅野に背を向けた。
「ちょっと、どういう事!お客さん来てるなら来てるって、先に言ってよ」
千尋はさっきまでのキラキラした顔が嘘の様に、鬼の形相で俺に小声でそう言った。
「ごめん。急に来たから連絡出来なかったんだよ」
「もう…しかも、あんなイケメン、私化粧直しもしてないのに…」
おいおい。気にするのはそこかい⁉︎
「ケホケホ…」
「篠原、早くベッド入った方がいいんじゃないか?」
堪えきれずに咳をする俺を見て、浅野は心配そうに、そう声を掛けた。
「あ、うん。じゃあ千尋、リビング好きに使っていいからな」
「うん」
千尋が頷いて、小さめのキャリーバッグを持ち上げ様とすると、すかさず浅野が手を伸ばした。
「俺が持つよ」
「あ…ありがとうございます」
あーあー、そんな事したら千尋が惚れてまうやろ!なんて、芸人の誰だかの少し古いギャグを心の中で唱えてみる。
だって、そうでもしないと、この状況の中で、平常心で居られなかったから…
「はぁ…こんなはずじゃなかったんだけどな」
一人、寝室に戻りベッドの中で呟いていると、浅野が入って来てベッドに腰掛けた。
ペリ…と音がして、俺のおでこの上にヒンヤリとした物がピッタリとくっついた。
熱で重かった頭が少しずつ軽くなる…
「ありがとう…」
「あぁ」
浅野はそう短く返事をしただけで、怪訝そうな顔で俺を見つめた。
この状況を浅野がどう思っているのかが、一番不安だった。
俺に聞きたい事があるはずなのに、浅野は無言のままで…
「妹が来る事、言ってなくてごめん」
耐え兼ねて自分から、そう口を開いた。
「俺に、会わせたく無かったのか?」
「そう言う訳じゃ…」
浅野に核心を突かれて言葉が詰まる。
良かれと思って看病しに来たのに、帰っていいなんて言われた後で、この状況になったら、そりゃあ誰だってそう思うよな。
確かに、会わせたく無かった。でも、何で会わせたく無かったかなんて、本当の事は言えない…言ったらきっと重いって思われる。
女だって言うだけで、妹さえもライバル視してしまうなんて…
浅野を独り占めしたいなんて…
「…ホラ、妹になんて会っても、面倒くさいだけだろ?だから言わなくてもいいかなーって」
こんな言い訳で納得するなんて思えないけど、苦し紛れに俺がそう言うと
「ふーん…」
案の定、浅野は全く納得してなさそうな顔で、そう言うと立ち上がった。
「…お前、まだ昼メシ食べてないだろ?何か作って来る」
「う…うん」
正直こんな状況で、食欲なんて無かったけど、俺はそう頷いた。
浅野が部屋を出て行った後も隣の部屋から聞こえてくる二人の会話が気になって、ついつい聞き耳を立ててしまう。
「さっきはビックリさせてゴメンね」
「いえ」
「そう言えば千尋ちゃんは、どうして東京に?観光って感じでもなさそうだけど…」
「実は、今日好きなアーティストのコンサートがあって、それで…」
「へぇ?誰が好きなの?」
「Bleed…です」
「そうなんだ。俺もたまに聴くよ」
「そうなんですね!嬉しい」
会話、弾んでる…
浅野と女の子との会話が弾む事なんて、今に始まった事じゃない。
いつもと同じじゃないか…何気にしてるんだよ俺は…
「何か作るんですか?」
「うん、お兄さんにね。風邪でも、雑炊なら食べられるかなと思って」
「私が、作りますよ!」
「大丈夫だよ。ココの勝手分かってるし」
「すいません兄が迷惑掛けて…浅野さんは、良くココに来てるんですか?」
「うん。週末はたまに来て、一緒に飲んだりするよ。今日は看病しに押し掛けただけだけど」
「ヘェー兄が羨ましいです、こんなカッコいい人に看病して貰えて」
「ははは」
「浅野さんって、彼女とか居るんですか?」
おい…千尋、直球で何て事聞いてんだ。
でも…浅野が何て返事をするのか気になる。
聞くのが怖い。
「居るよ。恋人」
‘彼女,と聞かれたのを、‘恋人,に言い換えたのは、俺の事を思ってくれてるからかな。
だったら嬉しい…
「そうですよねーいいなー彼女さん。やっぱり可愛いんですか?」
千尋が言う彼女というのが、俺の事で、妹に羨ましがられてるんだと思うと、何か恥ずかしくて、変な気分だ。
「可愛いよ。バカとか、アホとか、口悪いし、良くどつかれたりするけど」
そう言った浅野の声が、心なしか、大きくなった気がする…
俺が二人の会話聞いてるの分かってて、絶対ワザと言ってるな…
「え…それって、可愛いんですか?」
「可愛いよ。まぁ、俺の事あんまり信用してないみたいだけど…」
え…?
「彼女さんと、上手く行って無いんですか?」
「どうなのかな…俺は上手く行ってると思ってたんだけど…恋愛って難しいね」
浅野…これもワザと言ってるのか?
やっぱりさっきの事、怒ってるんだ。
俺が、浅野に内緒にしてたから。適当な理由で誤魔化して、自分の本当の気持ちを言わなかったから…
「あれ?卵切れてるな…買いに行かないと」
「あ、私も一緒に行きます」
「じゃあ、行こうか」
そんなやり取りが聞こえて来た後、ふと寝室のドアがコンコンとノックされ、聞き耳を立てていた俺の身体がビクリと跳ねた。
「篠原、ちょっと千尋ちゃんと買い物行って来る」
「…分かった」
そう言った後、玄関の扉が閉まる音が響いて、部屋には俺だけが取り残された。
「…」
自業自得だ。
浅野は、初めて結ばれた朝、‘ありのままの俺でいい,って言ってくれたのに…
自分を曝け出して、素直になれない自分が悪い。
‘恋愛って難しいね,
浅野の言葉が俺の頭の中をぐるぐると回っていた…
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
21 / 37