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きょとん、としている俺に、逢坂は笑って言った。
「訳が分からない、みたいな顔してるね。大丈夫、今から説明するよ」
逢坂は言いながら、白いシャツの中に手を入れた。
少しの間弄っていたかと思うと、ぱっと何かを取り出し、首から外す。
シャラン、という綺麗な音と共に、目の前にそれを翳される。
銀白色の、美しい鈴。
近くで見ると白より銀の方が強く、銀白色というよりかは、鼠色に近いように見える。
「これって、さっきの……」
「そう。君を助けた時の鈴」
こくりと、逢坂が首を縦に振る。
不思議なものだ。
一見、どこにでもある普通の鈴のように見えるのに、これで霊を祓うことが出来るなんて。
「…この鈴は、特殊なんだよ」
ふふ、と逢坂が小さく笑った。
「死んだ母の形見だからね」
「形見…?」
「そう」
逢坂は頷いて、それからふっと目を細めた。
「俺がまだ幼い頃に、死んだんだ。…俺のせいで」
「え……」
それって、どういう意味。
そう聞こうとした時、ふと、逢坂の表情が険しくなった。
「…来てる」
「…え、なにが…」
「……こっち。側に来て」
「ちょっ、…おい…!」
突然、ぐいっと腕を引かれ、逢坂の身体の中に閉じ込められる。
不意打ちに、心臓がどくんと跳ねた。
「お、っ逢坂…」
「…しっ」
逢坂が人差し指を、唇に当てる。
「…来てる。君の匂いにつられて、…二人かな」
「……っ」
ぞわ、っと背筋を悪寒が駆け抜ける。
“来てる”
その言葉が何を意味しているのか、主語を言われなくても分かる。
先程の恐怖が、脳裏に蘇る。
身体が、勝手に震えた。
「……大丈夫」
逢坂がぐっと強く、抱き寄せてくれる。
目が合うと、逢坂は柔らかく微笑んだ。
それだけで根拠のない安心感が、胸の中に満ちていくのが分かった。
「…俺から離れないで」
「……ん」
逢坂の腰に手を回し、その胸に顔を埋め、ぎゅうっと強く抱く。
『…シ…イ…』
耳を、不快な音が掠めた。
思わずびくりと肩が跳ねる。
『……クル、シ…イ…』
目を固く瞑り、逢坂の身体をきつく抱き締める。
大丈夫だよ、耳元で逢坂の声が聞こえた。
「…耳を貸さないで。絶対に、同情しちゃ駄目だ」
「う、うん…」
『…イタイ、イタイイタイ、…タス、ケテェ…』
悲痛な叫びが、鼓膜を震わせる。
ふと、先程の女の子の最期が、脳裏を掠めた。
断末魔の叫びをあげて最期を迎えたけれど、解放されたように嬉しそうに天へと昇っていった彼女。
霊とはいえど、皆、元は人間なのだ。
一人ぼっちで、苦しくて、そんな自分の存在に気づいてほしくて、助けてほしくて。
いつも誰かに手を伸ばして……。
「ーーっ林野君‼︎」
「え…?」
ザザ、ッと頭の奥にノイズが走った。
頭の中に、女の嬉しそうな笑い声が響く。
逢坂は軽く舌打ちすると、虚空に向かって鈴を投げつけた。
バチン、と何かが弾けるような大きな音。その瞬間、頭の中を流れていた不快なノイズが消える。
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