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◇◇
結局、何も言うことが出来なくて、沈黙が場を支配していた所を、それを破る形でケーキが運ばれてきた。
クリーム色のスポンジと真っ白なクリームとの層の上に、赤い大粒のイチゴが二つ乗った、よく見るショートケーキ。
いただきます、と胸の前で両手を合わせてから、小さなフォークでそのケーキを少量掬って口に入れれば、それは舌の上でふわりと溶けた。
口どけは軽やかで食べやすいし、それにイチゴの甘酸っぱさとクリームの甘さが程よく合っていて、とても美味しい。
ーーなのに。
すごく美味しい、のに。
逢坂のあの切ない笑顔が胸に引っかかって、どうにもケーキに集中出来ない。
考えれば考えるほど、段々味が失われて、空気を食べているようにさえ思えてくる。
ちらりと逢坂に目をやれば、何も喋らず、どこか上の空のような表情で、ケーキを口に運んでいる。
ーーいつも微笑んでいて、決して弱いところを見せなかった逢坂が。
あんな風に、声を震わせて。
泣きそうにも見えるような表情をして、無理矢理つくったような笑みを浮かべて。
こういう時、どうするべきなのだろう。
自分はなんて、声をかけてあげればいい…?
「……ご馳走さまでした」
結局、ちゃんと味わえないままに、ケーキを食べ終わってしまった。
美味しかったような、美味しくなかったような。
そんな、微妙な感じ。
「…出ようか」
「……うん」
逢坂の声で、椅子を引き、立ち上がる。
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