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◇◇
「……なあ、逢坂…」
逢坂の家に来るのは、これで二度目。
見慣れない家具達に、視線を順々に巡らせながら、隣に座る逢坂に声を掛ける。
俺の声に、逢坂ははっと下に落としていた視線を上げ、こちらへと向けた。
「…ん、なに?」
「俺、今日…逢坂の家に、泊まっていいのか…?」
「…うん、今日はずっと君の側にいたいから。……嫌?」
「……ううん、…そういうわけじゃ、ないけど」
嫌どころか、むしろ…嬉しい。
信じてるとは言ったけれど、…最悪の場合が起こることだって、ないわけじゃない。
もしそうなれば、今日が逢坂と会える最後の日になる。
だから、少しでも多く逢坂と…一緒にいたい。
「……おいで、林野君」
「あっ……」
優しい声と共にそっと抱き寄せられ、どきんと胸が高鳴る。
顔が熱くなるのを感じながらも、ゆっくりと顔を斜め上に向ければ、灰色の綺麗な瞳と視線がぶつかって。
「…だめ、…駄目だから、…っ離して…」
こんな風に抱き寄せられて、優しい目で見つめられたら、勘違いしてしまいそうになる。
離れようと身体をもぞもぞと動かしてみるものの、逆にぎゅうっと強く抱き締められてしまう。
「…逢坂、…だめ……っあ、う…」
ふ、と耳に息を吹きかけられて、身体がぴくんと震える。
続けて、耳朶をかぷっと甘噛みされれば、一気に体の力が抜けてしまう。
耳元で、逢坂がくすりと笑った。
「…ほら、おいで」
「……う、…」
ずるい。
そんな眩しい笑顔を見せられたら……拒めない。
覚悟を決め、抵抗を止めて、そっと逢坂の方に寄りかかってみる。
逢坂は微笑んで、それに応えるように、更に強く身体を抱き締めてくれた。
「……うん、いい子だね」
「…いい子って……なんか、子供扱いされてるみたい」
「え、ごめん、そんなつもりじゃないよ。ただ、素直に寄りかかってくる君が、可愛かったから」
「……っ」
言った本人は無意識なのだろうけど、逢坂の言葉は一々心臓に悪い。
かあ、っと熱くなった顔を見られないように、急いで逢坂から目を逸らして、俯く。
「…可愛いとか、嬉しくないし」
「……ごめん、怒らないで。だって、本当に可愛かったから…」
「…っバカ」
楽しそうに笑う逢坂の声を聞いていると、こちらまで楽しくなってくる。
そっと顔を上げてみれば、目を細めて微笑む逢坂と目が合って、自然と頰が緩む。
ーー覚悟は決めたはずなのに。
逢坂と過ごしていると、笑顔を見ていると、その覚悟が揺らいでいく。
もっと一緒にいたいって、心の奥底に渦巻く欲望が、溢れてしまいそうになる。
「…逢坂…」
死にたくない。
もっとこの人の笑顔を、近くで見ていたい。
無意識に伸ばした手は、逢坂の長い指に絡め取られる。
「……そんな顔しないで。君は、笑ってた方がいい」
「…っでも」
「……林野君」
こつん、と額と額がぶつかる。
透き通った灰色の瞳に映った少年は、今にも泣きそうな顔をして、こちらを見ていた。
「……そうだ、先にお風呂入ってきたら?その間に、ご飯作っておくから。…ね?」
「…えっ、お風呂?」
「そう。…ゆっくりしておいでよ」
「あっ、ちょっと…」
背中を押され、促されるままに、浴室へと向かう。
戸惑いながらも、ドアをスライドさせて、そこに足を踏み入れれば、あまりの広さと綺麗さに気圧されてしまう。
何も言えないでいる自分に、着替えとかは全部置いてあるから、とだけ言い残し、逢坂は去って行ってしまった。
「…気、遣ってくれたのかな」
綺麗に畳んで置かれたパジャマを見ながら、目元に滲んだ涙を拭う。
震える手を胸の前できゅっと握れば、根拠のない安心感が、ふつふつと込み上がってくる。
「…信じなきゃ」
逢坂は、約束してくれた。
必ず守る、と。
大丈夫。
今までだって、ピンチの時には必ず、助けてくれた。
だから、今回もーー助けてくれる。
今日が過ぎても、きっとまた、逢坂と笑い合える日が来る。
絶対に。
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