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silent town
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「おかしいなー。さっきの街から北西に行くと……山しかない。」
地図を広げて指でなぞる。
もっと進めば大きな街はあるが、歩いて2日くらいはかかる。
つまりここはこの地図には載っていない街だ。
「それにしても見事に………ゴーストタウンだな」
レトロな街並みはどの家も朽ちていて店だったであろう建物は木の看板が風に揺れてキィキィ寂しそうに鳴る。
ここに着いたのが夜だったら本格的な肝試しだ。
「どの道野宿だし今夜はここに泊まるか…」
雨風は凌げる分森の中で寝るより随分ましだ。それに野生動物に襲われる危険性も減る。熊とか狼とか……。
「…お邪魔しまー…す…」
俺は一番腐敗が進んでいなさそうな建物のドアを押して中を覗いた。
多分ここは飲み屋か何かだろう。
いくつかのテーブル席の他にカウンター席もある。
そしてその奥にはいくつか酒瓶が並んで埃を被っていた。
その店の隅に荷物を下ろし、水筒の水で喉を潤しながら改めて辺りを見渡すと視界の端を何かが横切りガタンッと音を立てる。
「!!なんだ…?」
大きさからして猫か何かだと思うけど分からないままじゃ不安で落ち着かない。
俺はその生き物が消えた方位へ出来るだけ静かに近付き、物陰を覗いて回った。
すると不意に白くふわふわした毛並みが目に飛び込む。
「猫……いや……キ、狐?」
猫よりも少し大きい眼に姿は狐。
山に囲まれた村で育った俺でも初めて見る不思議な生き物だった。
「…!怪我してるのか」
脚から一筋の血を流し、その根元には枝が刺さっている。
だから尚更なのか、この生き物は体をブルブル震わせて警戒心を露わにしていた。
「待ってろ、確か包帯があったはずだから」
物音で恐がらせないよう気を使いながら荷物まで戻り、包帯等を持って再び元の場所へ戻る。
それからはちょっとした格闘だった。
怯えきったその生き物に噛み付いたり引っ掻かれたりしながら枝を抜き、暴れるのを取り押さえて消毒と包帯を巻く。
そして手当てが終わった頃には日が暮れ始めていた。
「はぁ、はぁ、やっと、終わった。あー疲れた」
「…………」
「ほら、もう家族の所へ帰れよ。あ、しばらくは泥水に気をつけろよ?ばい菌が入るから……って何言ってんだ俺…」
言った所で通じるわけがない。
俺は脱力した体を引き摺って荷物まで戻り、ランプに火を灯して寝る準備に取りかかった。
「明日は川の近くを通るから水の心配はないか…。だったら今日はスープでも作っ……ん?お前まだ居たのか?」
手当てを終えた不思議な生き物が少し離れた所にちょこんとお座りしているのを見て俺は首を傾げる。
クリクリした瞳を瞬かせてじっとこちらを見つめる様はまるで────。
「…………。"食い物寄越せ"じゃないよな?」
「キュー」
そいつはつぶらな瞳で甘えるように鳴いた。
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