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「何が起こったんだ…!?」
「分からない…、とにかくここを出ましょう」
さっきの衝撃で扉が歪んで開いている。
俺達は時折振動に見舞われながら慎重に足を進め、やがて地上に位置する廊下に出た。
すると信じられない光景を目の当たりにする。
「嘘、だろ……」
「実力行使に出たみたいね。」
屋敷内は至る所が崩れ落ち、黒梓と他の種族の魔女が争っている。
敵対している事は随分前から知っていて、何度か話題に出たりもした。
けどその溝がどれだけ深みのあるものかは認識してはおらず、俺は目の前の闘いの場にてだ呆然とする。
クローディアはそんな俺の手を強く引き、魔女達の攻防を避けて走り出した。
「この機に乗じてアランを探すわ。スバル、あなたも来なさい」
「っ、アランは…そんなに悪い奴じゃない…!何も殺さなくても…!」
「駄目。これだけは変えてはならない事なの。あなたの兄弟だから庇いたい気持ちは分かるけど、彼はそれを覚悟の上で母親に従った。そしてこれは父親を奪われたあなたの役目よ」
「そんな事言われたって俺には…!」
「────アラン自身がそれを望んでいる」
「っ…!?」
「あなたと私を引き合わせれば何をするか位想定できるわ。彼には止められないのよ。生まれた時から刷り込まれてる母親の言葉には逆らえないの。だからあなたが終わらせてあげて」
アランは苦しんでる?
俺に止めて欲しいのか?
もし本当にそうなら俺は……どうすればいい?
「……行こう。アランに会って確かめる」
迷ってる暇なんかない。
俺は遅れがちな足に力を込め、彼の姿を探して走り回った。
呼吸が苦しく今にも壊れそうな胸を掴む。
「!?待ってスバル!何かおかしい…!」
肩を並べて走っていたクローディアが突然足を止めたのは大広間か何かの場所へ差し掛かった時だった。
そこでは数え切れない人数の魔女が死闘を繰り広げている。
「黒梓達の顔を見て…」
「顔?……なんか、焦ってる?」
歯を食いしばり獣のように噛み付かんばかりのその表情は間違いなく焦燥の色だ。
「黒梓は王の為に力を使い、命を失う。つまり……アランは深手を負ってるか、危機的状況にある」
「!?探さなきゃ…。俺…あいつの気持ち、何にも知らないんだ…!」
「スバル…。そうね。黒梓はあの扉を守ろうとしてるから、彼はきっとあの奥にいるわ。私が援護するから走って」
「分かった」
兄だと名乗られた今でも実感はない。
けどもし父親が生きていたら、俺とあいつは共に兄弟として生きてきたはずだ。
父親を手にかける前、彼はどんな想いで俺とクローディアを逃したのか。
俺は止めようとした魔女の静止を掻い潜って扉の向こうへ飛び込んだ。
「っ!?スバル様…!」
「ようやく来たか……。待ちくたびれたぞ」
己の血に塗れ、肩で息を継ぐアランを守るように2人の魔女が前に立ちはだかった。
皆分かってるんだ…。俺が何をしにここへ来たのか。
「あんた……分かっててやったのか…?」
「……、行け」
「ですがアラン様…!」
「くどい、行けと言っている」
「っ……」
2人の側近は彼に一礼し、複雑そうに俺を睨み付けてから大広間へと姿を消した。
その様子は彼を気にかけてのものだ。
「あの人達……あんたの事を心配してる」
「それがどうした。貴様の役目は何だ?それを遂行する事だけを考えろ。あまり待ってはやれんぞ」
力ない乾いた笑みが彼の残された時間の短さを物語る。
壁に凭れ辛うじて座る彼に近寄った俺は屈んで彼と目線を合わせた。
俺が持っているものは凶器でも魔力でもない。
「あんたが俺とクローディアを逃したって聞いた」
「目を……覚ましたか」
「……うん。……なんで俺達を逃したんだ。あんたにとって邪魔な存在だろ?」
「そう…だな」
柔らかく口元を緩ませ、アランの赤く染まる指が俺の頬を撫でてぬるりと血に染める。
「クローディアは……、お前が生まれてすぐに、父ではなく…俺にお前を抱かせた。"あなたの弟だから愛してあげて。そうすれば、この子もあなたを愛してくれる"と言ってな。だが生憎、俺は愛する術を教わってはいない」
「…………」
「父を手にかける前の晩。クローディアとお前を森の中へ逃した。これから俺が何をするのか……彼女は分かっている上でまた俺にお前を抱かせたんだ。別れをさせるつもりだったんだろう。だが俺は…お前と約束をした」
「約束…?」
「ああ。…必ず生きて戻って来い。そして最初に俺を殺せ、とな。だがその後、連れ戻されたクローディアの手にお前は居なかった。死んだと……告げられた」
「俺は…修道院に預けられたんだ。そしてすぐ若い夫婦に引き取られて……何も知らずに20年間も生きてきた。俺だけが……苦しみから逃れてた。あんたが俺を…愛してくれたから」
震える声でそう告げると鼻の奥がつんと痛くなる。
俺は知らない所でたくさんの人に支えられていた。
それを言い表すなら、"愛されていた"という言葉がよく当てはまる。
「俺は……っ、お前を愛せたか?」
「愛して…っ…くれた。下手だけど、十分伝わった…」
「…そう…か。」
彼は消えそうな声で満足そうに笑う。
そして服の内側から何かを取り出し、それを手に握らせた。
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