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グラウンドに出たらどうせ真島に女子が群がってきて、コイツと一緒にいる時間なんて取れないんだろうなとは思っていた。
案の定すぐにワッと女子が群がってきて、俺はやれやれとため息を吐き出す。
「ごめんね。悪いけど今は話し掛けないで貰えるかな」
だが真島は女の子たちにあっさりとそう言った。
ガッカリした顔をする女の子たちだったが、それでも真島だから仕方ない、みたいな反応になるのはイケメンの特権すぎる。
「お前…ばっさり切るな」
「え?何が?」
真島はやっぱり自分がモテるのを分かっていない。
まあ腹立つから絶対に教えてやらないが。
それからも入れ代わり立ち代わり女子どころか男まで来たが、真島は機械みたいに全部同じ対応だった。
自分の事ではあるが相変わらず物凄い格差だ。
ここまで差があると嬉しい半面、若干相手が気の毒にも思えてくる。
ぼちぼちと数が減ってきて、俺達はグラウンド脇の石段に座る。
キャンプファイヤーのやぐらからは少し遠いが、ようやく少し落ち着いた。
「あ、あのね」
真島がチラチラと赤い顔で俺の顔を見る。
「こ、後夜祭で告白して付き合うとね、幸せになれるっていうジンクスがあって…」
なんだそのどこにでもありがちな話は。
ああ、だからこんなにこぞって女子が真島に来ていたのか。
完全にアホかと思って聞いていたが、真島は何か俺に伝えたいらしい。
そもそも俺達もう付き合ってるんだから関係ねーだろ。
「で、なんだよ。お前の大好きはもう聞き飽きたんだけど?」
「え、ええっ。まだ全然言ってないのに…」
別に本気でそうは思っていないが、さっきのキスの件もあってどこか気恥ずかしかった。
真島に視線を向けぬまま、遠くでパチパチと音をさせるキャンプファイヤーを見つめる。
辺りはもうすっかり真っ暗になっていた。
「明日…朝起きて全部夢になってたらどうしよう」
「大丈夫だよ。つねってやろーか」
「えっ、いいの?」
なんでご褒美みたいな顔してんだよ。
ドMの真島は放っておいて、俺はぼんやりとさっきの教室でのことを思い返す。
夢みたいだと思ってるのは、正直俺も同じだ。
まさか真島に触りたいと思って、コイツにドキドキしまくって、挙句の果てにキスまで許すとか。
それでもいまだに胸がじわりと熱くて、後夜祭が終わってしまうのがどこか惜しく感じた。
不意に俺のスマホが音を立てる。
一気に現実に引き戻されたような気になったが、うるさいのでスマホを取り出して見れば先輩からだった。
早く告白してよー、とかまた適当なノリでメッセを送ってきている。
この人もホントブレないな。
「…あ、あの」
ちらりと隣を見たら真島が不安そうな表情で眉を落としていた。
ああそういやコイツ、独占欲の塊なんだった。
「そんな顔すんな。俺はここにいるから」
「…う、うん」
この間まで先輩に対して余裕な顔してたくせに、やっぱりあの光景を見たせいで真島の不安を煽ってしまったんだろう。
どことなくまだ心配そうだ。
分かりやすいその表情に心ほだされて、真島の頭を撫でてやる。
触れた箇所から、指先が熱くなっていくような感覚。
「…先輩と別れたのはさ、浮気されたから」
「――え?」
別に聞かれてはいなかったが、俺は口を開く。
「まあ浮気なんてよくある話だ。そもそも俺の方が浮気だったのかもわからないくらい、あの人何股もしてたからな」
それに気付いたのは、先輩を本気で好きになったらしい男に別れてくれと言われたからだ。
なんか腹が立ったから俺はソイツを殴って、先輩ともあっさりおさらばした。
その時に感じたのはショックだとかって感情ではなく、裏切られたという感覚のが強かったと思う。
「でもさ、俺だって先輩を利用してたんだよ。一人の時間を埋めたいから、先輩と付き合ってた。だからこそ俺は先輩を責められないし、本来ならお前みたいな奴に好かれるような人間じゃねーんだよ」
「…っ、そんなこと――」
すぐさま俺の言葉を訂正するように、真島が顔をあげる。
が、俺は何か訴えようとしている真島の唇に人差し指を当てた。
いいから、黙って聞いてろ。
押し黙った真島の顔を見つめてから、一度微笑む。
「もうやめるから。そういうの」
俺の言葉に、真島の肩がヒクリと揺れた。
純粋で真っ直ぐな真島の瞳に映る俺は、きっとあまりにも歪んで汚れきっている。
コイツとまだ一緒にいるつもりなら、今のままの俺じゃいけない。
「俺はこれから、お前のことちゃんと考えるよ」
正直まだ男同士で付き合うとか、俺の元々の性格もあるし一気に色々変えるのは難しいとは思う。
ただコイツのことは、適当にしたらいけないと思った。
コイツの気持ちに、ちゃんと向き合いたいと思った。
「…た…高瀬くん…、そ、それって――」
震えるように真島が俺を見て、パクパクと口を開閉させる。
俺はりんごみたいに赤く染まりきったその顔に、ニッと悪戯に笑ってやった。
「お前が言わねーからさ、代わりに言ってやった。今俺がお前に言える、精一杯の告白だよ」
こうなったら後夜祭のジンクスが本当かどうか、身をもって確認してやろう。
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